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葬礼のデックアールヴ

 母様を梅毒で殺した司祭の首が飛んだ。思わず目を背けた。吹き上がる血飛沫を悠々と掻い潜り、白髪が舞う。
 浅黒い両腕が打ち広げられると、金属質の煌めきが鴉のような絶叫を上げ、男たちの股間を次々と貫き、壁に縫い留めた。
 全員わたしを組み敷き、血を流させた奴らだ。
「さて、どうするね?」
 悪鬼がこちらに向き直った。白髪がさらりと流れる。
「殺して」
「おぉ、なんと惜しいことを」
「早く」
 隣で屹立する〈墓標〉に浅黒い手が突っ込まれると、棘が四方に伸びた鎖を引っ張り出した。
 腕を一閃。
 凶暴な唸りを上げて、鋼の大蛇は男たちの首から上を食いちぎっていった。壁に血肉が叩きつけられる。わたしは悲鳴を噛み殺す。
「他の連中はどうするね?」
「言わないと分からないの?」
 何の動揺もない自分の声が、一番恐ろしかった。
 悪鬼は隆々とした肩をすくめ、〈墓標〉の一部を変形させて新たな拷問具を取り出した。刃渡りが両腕を伸ばしたほどもある、鋏のような凶器だ。
「――我が祖霊らの舎利を納めし〈墓標〉を突き立てた以上、この地は我が家門の葬園なれば、」
 腰を落とし、身を捻り、すくい上げるような軌道で投擲。
 叫喚を撒き散らし、逆方向に回転する二枚の刃は、我先にと逃げる老若男女を連続して喰い千切る。
 血を曳いて戻ってくる鏖殺の円盤。中央に埋め込まれた柄を過たず捕らえ、その場で旋回して勢いを逃がす。
 直後に両断された村人らが地面にぐちゃりと崩落する。臓物と糞尿の匂いが満ちる。苦悶と命乞いに耳を塞ぎたくなる。
「実り育まれしは悉く我が父祖らへ捧ぐ供物なり。おぉ、芳醇なるや、馥郁たるや!」
 悪鬼は〈墓標〉から次々と奇怪な得物を取り外しては、村人たちを処理していった。子供は素手で縊り殺している。
 不作と飢饉の責任を、ただ薬草に詳しかっただけの母様に被せ、虐げ続けた人々の末路。吐き気を飲み下す。
「終わったぞ、弱者。全員お前のせいで死んだ」
「終わりじゃないわ」
「うぬ?」

【続く】

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