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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #9

  目次

 防がれることは想定していた。
 筋量のブーストや神経反応速度の向上など、さまざまな生体改造が施された〈原罪兵〉であるが、基本的には生身だ。機動牢獄の罪業ファンデルワールス装甲を貫徹するほどの威力など必要ない。
 より重要なのが、「力の加わり続ける時間」だ。
 暗い目の男より受け継いだ銃機勁道の深奥は、撃ち放たれた勁力射撃の力の質に干渉することにある。
 力積の値そのものは撃ち放たれた瞬間に確定してしまうが、それを構成する「力の強さ」と「力の加わる時間」の配分を自在に変化させることができるのだ。
 結果――「標的に激突しても数秒間、強力な物理衝撃を与え続ける銃撃」が実現する。
「なん……だこりゃァ!?」
 アーカロトの攻撃を難なく罪業場で防いだ敵は、しかし一向に落下せずいつまでも唸りを発しながら推進力を保ち続ける奇妙な銃弾を前に、狼狽の声を上げる。
 彼の罪業場は電磁力を完全に遮断するもののようだ。つまり――この瞬間、敵の視界は自らの罪業場によって完全に遮断されており、アーカロトが起こす次なるアクションを一切視認できない。

 二度目の轟音。

 撃ち放たれた勁力弾頭は、〈原罪兵〉の前腕に収まっている罪業収束器官を打ち砕いた。二つに分割されていた腕の片割れが吹き飛ばされ、敵は大きく体勢を崩す。
 鋭い呼気を発しながら、少年は迅雷のごとく肉薄。
 無事な方の腕から罪業場を展開して間髪入れず迎撃してきた。赤紫の閃光を、しかしアーカロトは流水のごとき体裁きでかわす。目線、呼吸、重心の移動などから斬撃軌道を容易く予測する。裂帛とともに放たれる第二閃。もう遅い。数メートルの刃物を振り回すには、間合いが詰まりすぎている。円環の動きで罪業場の側面に触れ、滑らかに化勁うけながした。間近にて視線が交錯する。驚愕と、憤激と、奇妙な冷静さが同居する、その眼差し。
 〈原罪兵〉特有の、どこか俯瞰的な視線。
「――シィッ!」
 直後に跳ね上がってくる男の膝。人間の頭蓋など瞬時に粉砕する威力のそれを、しかし矮躯の子供は足場代わりにした・・・・・・・・
 軽功の応用によって、膝蹴りの衝撃を自身の移動手段として活用したのだ。内家拳法の達人にとり、単純な質量の加速による打撃などダメージ足りえない。
 敵の膝頭に足をかけてカタパルトのように射出されたアーカロトは、鉤手の形にした左手をすくい上げるような軌道で男の顎骨と頸の接合部に打ち込んだ。

【続く】

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