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夜天を引き裂く

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ツァラトゥストラの咆哮は、闇の底に反響し、ヘプドマスへ至る道を啓く。
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#SF

夜天を引き裂く #12

夜天を引き裂く #12

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 ――どうすればいいんだ。
 秋城風太は半ばパニックに陥っていた。
 界斑璃杏の名を聞き、慌てて病院から駆けつけたはいいが、そもそも学校に着いてから具体的にどうするのかということをほとんど何も考えていなかったのだ。
 ――そもそも僕はどうしたいんだ!
 それがよくわからない。界斑さんを助けたいのか? そして彼女に気に入られたいのか? 再び操り人形となって、夜毎に血生臭いことをやらされ

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夜天を引き裂く #13

夜天を引き裂く #13

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 絶無はさすがに瞠目した。
『え、ウソ……え!? ホントですぅ!? うわ、ホントだ!』
 クリオネがうろたえたような声を上げた。
『今なら楽に勝てる。休戦といこう。利害は一致しているはずだ』
 重騎士が重苦しい口調で提案する。
『ふふん、了解ですぅ。神骸装を潰したなら大手柄ですぅ~!』
 半透明の頭部がぱくりと割れ、中から白い女の腕が六本ほど伸び広がった。
 ほっそりとしなやかなシル

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夜天を引き裂く #14

夜天を引き裂く #14

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「黒澱さん、僕はね、何もしないうちから負けを認めて中身のないプライドを守ることに汲々としているだけの人間を心の底から憎んでいますし、そういう連中の「僕ちゃん賢いから自分の痛さをちゃんと客観視できてますよ」アピールにもうんざりしているんです」
 絶無は、自らの中に仕舞っておいた野望を熱く語った。
「自らの弱さを正当化した先に待っているのは、際限のない妥協と不幸の連続です。それは人間の生

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夜天を引き裂く #15

夜天を引き裂く #15

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 ……絶無にとって痛恨だったのは、諸々の証拠を集めてクズ教師とカス女を社会的に抹殺するのに一週間もかかってしまったことだ。
 一週間!
 一週間も奴らは「示談がうまくいって賠償金までせしめられそうだ」とわが世の春を謳歌していたのだ。
 その情景を想像するだけで腸が煮えくり返りそうになる。
 顔に、雪が触れた。
 闇の曇天から、音もなく白い幻想が降り積もる。
 普段なら、目を細めてひと

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夜天を引き裂く #17 終

夜天を引き裂く #17 終

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『――知恵比べは』
 戦意の猛りと、嗜虐の笑みを滲ませて、言う。
『僕の勝ちのようだなァ……!』
 重騎士の背後から。
 絶無は、そう声をかけて。
 獰悪に嗤った。
 ――見たぞ。貴様の強さの根源を。
 最初に五つ目の円盤が飛来して腕を切断していった時点で、すでにこういう展開を可能性の一つとして予想していた。奴の視界から逃れた一瞬を見計らって、入れ替わっていたのである。
 ――重騎士

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夜天を引き裂く #10

夜天を引き裂く #10

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 いくつかの壁を突き破り、十秒とかからずに橘静夜は悲鳴の発生源に到着した。
 下駄箱が連なる一角で、饐えた匂いが立ち込めている。
「ヒッ、ひぃ……っ!」
 一人の男子生徒が、尻餅をついている。
 その視線の先には――案の定、堕骸装である。
 ――ぶるぶるぶるぶるぶる! ぶるぶるぶるぶるぶる!
 巨大な芋虫そのものの頭をしきりに振り立てながら、汚猥な粘液を撒き散らしている。
 頭の先か

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夜天を引き裂く #8

夜天を引き裂く #8

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 昼休み。
 中庭のベンチにて、絶無は黒澱さんと並んで弁当を広げている。
 すでに病院での顛末はあらかた話し終えていた。
「そしてこれが、秋城風太から強奪したモノです」
 掌を開いて、彼女に差し出す。
 奇妙な物体だった。親指よりやや大きい程度の小瓶である。中にはミイラのように痩せ細った小動物が入っていた。
 一見するとネズミのようにも見えるが、前肢から皮の翼が生えている。干乾びてほ

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夜天を引き裂く #7

夜天を引き裂く #7

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 ――あの夜。
 絶無と脳怪物が死闘を演じ、そこへ重騎士が乱入したあの夜。
 公園にはサラリーマンの惨殺死体が残されていたはずだ。もちろんそんなものを黒幕が放置するはずがない。必ず何らかの方法で証拠の隠滅にかかるのは確実だ。黒澱さんを家に送ったその足で調べに向かうと、案の定そこには不自然に掘り返された地面だけがあった。恐らく、黒幕は秋城風太以外にも何体か堕骸装を従えているのだろう。そ

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夜天を引き裂く #4

夜天を引き裂く #4

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 体が、重い。いくら呼吸をしても、体に酸素が廻っている気がしない。
 絶無は立ち上がろうとし、膝から崩れ落ちた。四肢に力が入らない。
 ――後悔は、ない。
 この一生を何度繰り返そうと、あの場面で「逃げに走る」という選択肢は絶対に選ばない。
 とはいえ少々難儀な状況には違いない。
 ――人通りのある場所まで這って進めれば……
 頭に血が行き渡らないせいか、そんな程度のことしか思いつけ

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夜天を引き裂く #2

夜天を引き裂く #2

 前

 これほど醜い生き物を、見たことがなかった。
 眉をひそめ、前方の闇にわだかまる何かを眺める。
 ――これは一体、何の悪意だ?
 酸性の臭気を放つ肉塊。
 おおまかな姿形は人間のものだ。私立孤蘭学院の男子制服を身につけている。
 しかし――その頭部は異常に膨れ上がっていた。
 肩幅よりも巨大な頭。
 薄っすらとピンク色の、それは脳だった。
 頭蓋骨を内側から押し破り、異形と化すまでに膨張し

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夜天を引き裂く #1

夜天を引き裂く #1

 いじめを苦に自殺、などというフレーズが、たまさかネット上を飛び交うことがある。
 馬鹿ではないのかと思う。
 ただの無駄死にである。
 遺書に恨みつらみなど書いたところで、どうせ犯人たちの名はメディアには載らないのだ。どの道死ぬならすっきりしてから死のうと、なぜ思わないのか。
《あはは、うける~》
 水音が聞こえる。
 苦しげなうめき声が混じる。
 久我絶無は、無表情のまま小用を済ませ、手を洗っ

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