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#25_【読書】悲劇の世界遺産 ダークツーリズムから見た世界/井出明(文春新書)

8月9日って、全国どこの学校も登校日かと思ってた!

ヨソモノの私とはいえ、8月9日は長崎に原爆が投下された日であることは子どもの頃から知っていますが、その日に長崎県内の各学校で平和学習の授業が行われていることは、移住するまで知りませんでした。
逆に長崎の人に聞きますと「なんで平和学習が行われないのかが理解できない」という答えが返ってきたこともあります。

最近廃墟に心を揺さぶられることが多いので、今回は「悲劇の世界遺産 ダークツーリズムから見た世界」という本を紹介したいと思います。
まず、読後感じたことをひとことで申し上げますと、観光ガイドにも非常に通ずる話ですが、「現在につながるストーリーテリングが大事」ということでしょうか。

著者の井出明さんは、日本で「ダークツーリズム」を提唱している観光学の研究者です。ダークツーリズムと聞き、最初「なに?黒歴史?」という印象を持ちましたが、戦跡や災害被災地など、死・暴力・虐待などの悲劇にまつわる場所を訪問する観光のことをいいます(JTB総合研究所「観光用語集」より引用)。具体的には、アウシュビッツ強制収容所、リバプール、チェルノブイリ、原爆ドーム、長崎県端島(軍艦島)、三陸海岸(東日本大震災)あたりが代表例として挙げられます。

戦跡や災害被災地など、死・暴力・虐待などの悲劇にまつわる場所を訪問する観光のこと。ブラックツーリズム(Black tourism)、悲しみのツーリズム(Grief tourism)とも呼ばれる。英国の学者が1990年代後半に提唱し、死者を悼むとともに、悲しみを共有する観光とされるが、その解釈や捉え方は様々である。「悲しみを受け継ぐ」という意味から「ピースツーリズム」と呼ぼうという動きもある。

JTB総合研究所「観光用語集」ダークツーリズム

主観に左右されるところもありそうですし、一概にこれが定義というのもなさそうですが、対馬ですと、佐須地域の元寇にまつわる史跡や、大船越、芋崎をはじめとした幕末から日露戦争期にかけて史跡、「4・3事件」の供養塔あたりが当てはまるでしょうか。

当事者の方々は、辛い気持ちを抱えながら、資料や現場を公開されていることと思いますので、訪問する側の姿勢として、気持ちを逆なでしないことは大事かと思いますが、被害者の視点だけで捉えてしまうと、悲劇や過ちの背景や経緯への理解にまで至らず、結局過ちの抑止にはつながらないのではないか、という気がします。
一方、発信者側についても、公開するからには、多くの方々の共感を得たい意図や願いがあるのだろうと思いますが、特に第三者が相手であるならば、感情や思いばかりに任せるのではなく、現実的に訴えかけて、イメージしやすくすることも意識しなければならないと思います。まさに本書でも、アニメ映画「この世界の片隅に」の描写を引き合いに、「広島を単なる悲劇の街ではなく、繁栄の時代との連続性の中で描きだしている点」に触れていますが、説教臭や押しつけがましさがあっては、共感を生むどころか、興味関心を持った人からも避けられてしまいそうに感じます。
伝えるのって難しいです。

廃墟でも同じように言われますが、少なくとも、対象をゴシップやオカルトのような好奇の目でしか捉えないとか、現場に訪れたことに満足してしまって終わりとかではなく、当時の政治や経済などの時代背景を踏まえ、なぜそのような悲劇や過ちに至ったのかを考え、未来でも同じことを繰り返さないよう、身の回りの方々や後世に語り広めることが、大切な心構えではないかと思います。
現場も当事者も「歳を取り」、変化をしていく中で、どのようにすれば歴史を風化させずに継承できるのか、色々考えさせられます。

最近、「島の数を数え直したら、全国に14,125の島がありました」という発表が国土地理院からありました。それだけ島がありますと、様々な歴史を抱えた島があります。流刑地の島、重要な軍需工場があり地図から消された島、感染症患者の隔離場所となった島、そして対馬もですが国防の島…。
島も注目していきたいですね。

ひと昔前の感覚では、社会問題が旅行のネタになるなど想像も付きませんでしたが、未知なる世界に触れられれば、それも旅として成立するのだろうと思います。そんな驚きを提供できる企画を考えていきたいところです。

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