下弦の月弁当とあんこ
「実は俺、Mの高校の同級生なんだけど」
いかにも「今から人の悪口を言いますよ」といういやらしい調子で、そいつは近寄ってきた。Mというのは、その場にいない我々の共通の知り合いである。おだやかで落ち着いた話し方をする好青年で、取引先各社に隠れファンが少なくない。私もその1人だった。他人の尊厳を大事にし、赤の他人にも丁寧に接する。女を小バカにする社風の中、彼だけは間違っても女子に「おい、お前」などと呼びかけない。他人のミスを笑うのではなく、自分の失敗を笑い話にする。私にとっては「