にひと

ここは小説のみ。甘党だが、コーヒーは無理してブラックで飲むタイプである。

にひと

ここは小説のみ。甘党だが、コーヒーは無理してブラックで飲むタイプである。

最近の記事

盗作とパンツとヘミングウェイ

 諸君、パンツは、好きかね?  ああ、返事はいらない。君たちの意見にはまったく興味がない。便宜上訊いてみただけだ。  実は私は、パンツはまったく好きじゃない。「次に会う時は何色の下着がいい?」などと訊かれて、適当に「黒」と答えて、「何言ってんの!? この間も黒だったでしょ!」などと怒られるのは面倒だし、そもそもパンツなどただの綿類である。下着泥棒は、私にはまったく理解できない犯罪のひとつだ。  嘘だと思うのなら、そら、そこのスカートをはいた女子。スカートをめくってパンツを見せ

    • さらし者になった男

      「急に水深が深くなったんですね?」と司会者が言った。 「そうだよ」と若い男が唇をゆがめながら頷く。文句あんのか、とでも言いたそうな表情だった。 「だってよ、あんな細い川なんだぜ。まさか、足が付かないなんてわかるわけないだろ」 「しかしですねえ」と司会者が微笑みながら言う。「遊泳禁止の立て札があったでしょ」 「知らねえよ、そんなもん。暑いんだから泳ぎたくなるだろうがよ。バーベキューやってビール飲んでいい気分になってよ、そしたら誰だって泳ぎたくなるんだよ」 「しかしですねえ」と再

      • CMF Watch Pro 2のある憂鬱

         昔はエロ動画を集めるのが趣味だったのだが、さすがに最近は控えている。性欲が衰えたせいではなく、キリがないからだ。今の時代、いくらでもノーカットのエロ動画がタダで手に入る。必然的にエロ動画の収集熱は冷めるというわけだ。  ああ、モザイク入りの範田紗々の動画に心をときめかせていた頃が懐かしい。いや、河原に落ちているエロ本を拾っていたあの時代に戻りたい。  で、今は何を集めているかというと、スマートウォッチである。金を稼いでいた頃は、車だバイクだと騒いでいたのだが、今は底辺を四つ

        • 生きてるだけで偉い!? いやいやいや。

           うーん、と私はうなった。  あるテレビ芸人が「生きてるだけで偉いので皆優勝でーす」とSNSで発信し、それに対して別のテレビ芸人が「お前は偉くないので、死んでくださーい」と返したのだそうだ。  まあ、テレビ芸人の言うことだし、私としてはさほど気にはならないのだが、「死んでくださーい」と返した方は随分と炎上しているのだそうだ。  炎上している以上、私も「死んでくださーい、はさすがにひどいぞ、おいこらてめえ」と尻馬に乗るべきなのだろうが、そこで「うーん」とうなったのである。 「生

        盗作とパンツとヘミングウェイ

          盗作小説家

           小説のアイデアが出ないときにはどうするか?  簡単である。パクればいいのだ。バレなければノープロブレムである。仮にバレたとしても、言い訳すれば大丈夫だ。とりあえず土下座して号泣すれば、たいていは許してもらえる。  おれの場合は、海外テレビドラマからパクることが多い。この間も「月刊ファイヤーマン」というマイナーな雑誌からのオーダーがあったのだが、どうしてもアイデアが浮かばなかった。  タイトルからすると子供向きの特撮系雑誌なのだろうが、実は全然読んでいない。おれは、他人が書い

          盗作小説家

          彼女は死んでもペンを離さなかった

           昔は良かったなあ。みんなタバコを吸っていた。まあ、そう言うと、今の嫌煙社会を嘆く喫煙者と思われるかも知れないが、実はわしは吸っていなかった。大らかだった時代性を懐かしんでいるだけだ。  わしの場合は、吸っていいのは女性のオッパイだけだと父親からきつく言われていたからな。それともう一つ、タバコを吸って鼻の穴と口から煙を吐くこと自体に抵抗があった。美意識に反したんだな。  当時のフランス映画やハリウッド映画では、美男美女がタバコを吸いまくっていたから、みんな影響されたんだろうな

          彼女は死んでもペンを離さなかった

          ある散歩道の惨劇

           前から自転車に乗った女子高生がやってくる。本来なら車道の左端を走らなければならないのだが、走っているのは自転車走行不可の歩道である。しかも、彼女はスマホを見ながら運転していた。  アウト~ッとおれは心の中で叫んだ。  おれは、何でも入っているトートバッグから大型のバールを取り出した。右手でしっかりと握り、その冷たさと硬さに頼もしさを感じる。バールを背中に回して彼女の視線から隠した。  チラチラと視線を前に向けているから、おれの存在には気づいていたのだろう。彼女は、端っこに寄

          ある散歩道の惨劇

          隣に女の子が座ってきたときの対処法

           ネットでおもしろいニュースを読んだ。いや、少々奇妙なニュースと言ってもいいかも知れない。  JR鹿児島本線の列車内で女子高生への不審な接近が発生したと言うのだ。おそらく警察の不審者情報で通知されたのだろう。昨今、よくある話だ。  その記事によると「30歳くらいの小太りの男性が、八代駅から熊本駅方面の空席のある列車内で、女子生徒の隣に座った」とのことである。  思わずフフフと笑い声が漏れた。声を出して笑ったことなど何年ぶりだろうか。ただ小太りの男が女子高生の隣に座っただけで通

          隣に女の子が座ってきたときの対処法

          逆襲の巨人ファン

           大阪は苦手な街だ。  私は、ヨシモトの連中が騒ぐバラエティ番組ではクスリとも笑えないし、通天閣にも登ったことはない。猫舌だからタコ焼きも嫌いである。もちろん会話の途中で「なんでやねん」と突っ込んだこともない。  そもそも子供の頃からコミュ障で、大阪人のノリどころか、通常の会話もまともにこなせないのである。沈黙は金という言葉があるが、アピール全盛の時代、沈黙は無能と思われることが多いのだ。  だから、大阪に転勤が告げられたとき、私は絶望を感じた。上司から告げられた瞬間に下半身

          逆襲の巨人ファン

          相手を侮辱する一番いい方法

           うーん、とおれはうなってキーボードを打つ手を止めた。  ここでヒロインが悪漢を侮辱するシーンを入れるつもりなのだが、どういう行動が最も相手を侮辱することができるのか。おれは、品行方正にして温厚篤実、人の悪口も言わない男である。  できれば相手の心を傷つけ、グチャグチャにして、3ヶ月は立ち直れないような侮辱を与えたいのである。だが、どうにも具体的なイメージがわかない。よく考えてみれば、おれは他人と口論さえしたことがないのだ。  たとえ正反対の意見であっても、「まあ、彼の立場な

          相手を侮辱する一番いい方法

          執筆雑話 怪奇ローマ字入力男

          「おい」と声をかけられた。  おれが社内で二番目に嫌いな上司である。この男は、挨拶をしても返さないことで有名なやつだ。だから、おれもこの上司には挨拶をしなくなった。今や誰からも挨拶をされなくなった男なのである。  誰からも相手にされない偏屈男であり、考えてみれば少し可哀想な気がする。だが、まあ、仕方がない。自業自得、身から出た錆、英語で言えばhave it coming(それは当然の成り行き)である。  その上司がおれに声をかけてきた。  上司であるが、仕事の関係はない。第二

          執筆雑話 怪奇ローマ字入力男

          移民難民アリナミン的なお話

           得意先へ向かう電車の中で、気がつくと鼻歌が出ていた。最近、歳をとったせいかこういうことが増えている。頻尿、独り言、めまい息切れ、立ちくらみ。この間は、ジョギングしようと10メートルくらい走ったら、貧血で倒れた。歳は取りたくないものである。  おれの鼻歌は、こういう歌詞だった。 「♪ 頭がクルクルクルドジン~。なくて七癖、いつもの寝癖。やっぱり彼らはクルクルパーマ」  隣で立っていた部下の山本か山村か、もしくは山田とかいう男が慌てた口調で「部長、その歌はマズいです」と言う。

          移民難民アリナミン的なお話

          アレがなくなりました

           朝、目が覚めると金玉がなくなっていた。まあ、珍しいことではない。カフカの主人公が大きな虫に変身して以来、こういう話は山ほどある。  おれ自身、絹ごし豆腐に変身する話を書いたことがあり、ええと、あれはどんな結末だったか。面白がって追いかけてくる小学生どもと死闘を繰り広げたところまでは覚えているのだが。  おそらく崩れてしまったのだろう。せめて木綿豆腐にしておけばなあ。  もう一度、寝床の中で股間をまさぐってみる。やはり金玉がない。竿の部分はあるのだが、袋はないのだ。おれは、絶

          アレがなくなりました

          もはや想像力は不要と言うのか!?

           うーむ、と私はAmazonの箱から取り出したゲームのパッケージを見ながらうなり声をあげた。本当に妻が外出中でよかった。ベストな配達タイミングである。配達員さん、ありがとう。  手にしているのは、「ダンジョントラベラーズ2 王立図書館とマモノの封印」というゲームのパッケージである。図書館らしき壮麗な空間の中、十人以上の美少女たちが描かれている。中には巨乳もいれば、きわどいコスチュームの女の子もいる。  こんなものをクレオパトラ似の妻に見られたら、申し開きができないではない

          もはや想像力は不要と言うのか!?

          死に際の魔術師

           葬式が増えたなあ。  おれは、喪服を吊しながら、つい独り言を言う。ついでに言うと、白髪も増えたしトイレに起きる回数も増えたし、なにより独り言も増えた。減っていくのは、残りの寿命のみだ。  言っておくが葬式は嫌いである。まあ、当たり前だろう。葬式が好きなのは、坊主と葬儀屋と政治家だけだ。普通の人にとって、知人の親や遠い親戚の葬式は面倒なだけである。  そもそもおれは、舌が短いせいか滑舌が悪い。特に「ご愁傷様です」などの複雑な発声はできないのである。いつも、「ごすーそーさ

          死に際の魔術師

          iPhone殺人未遂事件

           スマホが手からすっぽ抜けた。飛んでいった先は、書棚のガラス戸である。見事に割れた。  新しいスマホを買って、ジェスチャー機能を見ていると「二度振ればフラッシュライトが付く」と書いてあったのでやってみたのだ。まるで魔法の杖ではないか、とやってみたら飛んでいったのである。  書棚のガラスは割れたが、スマホは無事だった。買ったばかりのスマホだから、あわてて駆け寄ったのだがなんともなかった。  一応、スマホケースと保護ガラスは付けていたのである。備えあれば憂いなし、転ばぬ先の杖、英

          iPhone殺人未遂事件