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もはや想像力は不要と言うのか!?

 うーむ、と私はAmazonの箱から取り出したゲームのパッケージを見ながらうなり声をあげた。本当に妻が外出中でよかった。ベストな配達タイミングである。配達員さん、ありがとう。

 手にしているのは、「ダンジョントラベラーズ2 王立図書館とマモノの封印」というゲームのパッケージである。図書館らしき壮麗な空間の中、十人以上の美少女たちが描かれている。中には巨乳もいれば、きわどいコスチュームの女の子もいる。

 こんなものをクレオパトラ似の妻に見られたら、申し開きができないではないか。スケベかつ足がくさい救いようのないオタクジジイと思われてしまうぞ。もし、買ったのがプレミアム版だったら、もっとエラいことになっていたに違いない。

 アレは、さらに卑猥なパッケージだったからな。お風呂スティックポスターという裸の少女が描かれた特典も付いているようだし、さすがはプレミアム版だと感心した。迷った末に通常版にしたのだが、正しい判断だったと言えよう。あんなもの隠し場所に困るのである。

 私は、妻が外出中だったことに胸をなで下ろしながら、長年使い込んだケータイゲーム機を取り出し、手にしたカセットをセッティングした。

 ゲームが立ち上がるまでのわずかな時間に、ふと電子ゲームと出会った頃のことを思い出す。Once upon a time、今は昔のパソコン黎明期の話である。

 ご存知か?

 昔の、パソコンゲームは実にショボかった。例えば、ダンジョン探求型のゲームで有名な「ウィザードリィ」である。 グラフィックは、真っ黒の画面に、白い直線で建物内の廊下や扉らしきものが描かれているだけだ。

 突然、変な生き物のイラストがあらわれる。カラーで表示されてはいるが、下手くそなイラストだ。いまどき小学生でも、もっとうまく描くだろう。

 だが、私は「敵だ」と心の中で悲鳴を上げる。心臓の鼓動が一気に跳ね上がる。たかがゲームなのに必死なのだ。 私は、キーボードを使って、自分のチームに命令を与える。私が作り出し、育て上げた戦士や魔法使いである。

 よし、サムライの花子さんは、敵の戦士をやっつけてくれ。魔法使いの純子さんは、火の玉で相手の僧侶をたのむ。盗賊の恵子さんは、とりあえず防御していてくれ。ナイフを持っているからと、前に飛び出すんじゃないぞ。

 などとつぶやきながら、対戦を続ける。敵の戦力を分析し、弱点を見つけ、効果的な攻撃方法を選択するのだ。

 あーっ、何をしている。花子さんがやられた。そんなスカートをはいてるから、パンツが丸見えじゃないか。ちゃんとヨロイをつけておけと言っただろうが。純子さんも呪文をとなえるときに、カラダをゆすりすぎだ。巨乳がゆれてるじゃないか。けしからんっ。

 実際には、「HANAKOは6のダメージ」とかの文字が出ているだけである。だが、それでは面白くないので、脳内で映像を作り出しているわけだ。 思えば、バカなことに時間をついやしたものである。

 で、今はもうそんなバカなことに時間をついやしていないかというと、やっぱり、まだまだついやしているのだ。Amazonのゲーム評を読むのが楽しみのひとつである。人間、そうそう進化はしないのだ。

 ある日、「ダンジョントラベラーズ2が面白い」とネットでおすすめしているブログを読んだ。結構本格的なRPGゲームらしい。Amazonの評価も高いので、さっそく取り寄せたのだ。

 私は、ワクワクしながら携帯ゲーム機をにぎりしめた。昔ならジーコジーコとフロッピーディスクを読みに行ったのだが、今は、もっとスピーディーだ。ほとんど待つ時間もなく、ゲーム画面に切り替わる。

 だが、パソコンゲームの起動を待つあの時間は、私は決して嫌いではなかった。待つほどに期待は高まったのである。タイパか何か知らないが、現代人は、そんなに急いでどこへ行こうというのか。

 まあ、いい。時代の進化を否定するのは、まさに老害的反応である。進化は、享受すべきものなのだ。

 よ~し。久しぶりに、私の類まれなる想像力を解き放つときがきた。今回は、花子さんに黒のパンツをはかせてやろう。純子さんは、巨乳から爆乳にバージョンアップだ。新たなキャラクターとして雪子さんも作ってやろう。当然、雪子さんのパンツはシースルーである。

 そしたら、あなた。

 このゲーム、主人公の男がチームリーダーになり、メンバーもあらかじめ決められているゲームだった。しかも、その全員が女の子なのだ。ウィザードリィでは、顔も見られなかったのが、このゲームでは総天然色で描かれている。声まで出るのである。

 さらに、敵のモンスターまで女の子で、きわどい下着姿だったり、巨乳だったり、これでは、私の想像力を発揮する場面などどこにもない。私が妄想するまでもなく、パンツが見えているのである。

 これが進化というものか。 私は、一抹のさびしさを感じながらゲームを続けた。

 私は、かつてのゲームの良さを否定したくはなかった。これは、RPGにおける進化なのか。いや、これは断じて進化などではない。ゲームと人の関わりにおいて、これは退化と言うべきであろう。想像力を駆使して楽しむあの時代のゲームこそが……。

 おっ、またパンツが見えた。

 夢のようじゃないか、と私は思わずつぶやいた。




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