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【BranCo!の漕ぎ方 #2 CONCEPT編】クリエイティブジャンプよりクリエイティブホップ

こんにちは。昨年度優勝者/学生スタッフの内山です。

『BranCo!の漕ぎ方』第2回はCONCEPT編。今回お話をお伺いする審査員は、博報堂 統合プラニング局のコピーライター/プラナーの桃井菜穂さん。言葉を起点に統合的なコミュニケーションを手掛けられています。

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また、博報堂ブランド・イノベーションデザインに所属し、BranCo!の運営を行う岩佐数音さん(桃井さんとは大学・会社の同期)にも来ていただきました!


人々が気づかなかったことに名前をつけろ!

桃井:
よろしくお願いします。

岩佐:
よろしく~

内山:
桃井さんのコピーライティング、PR、戦略設計のバックグラウンドを踏まえて、コンセプトについてお話していただけますか。

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中央下:桃井さん 右上:岩佐さん 左上:内山


桃井:
私がコンセプト作りにおいて重視しているのは、「これまでも存在していたけど名前がついていなかったものに名前をつける」ということです。言語化による概念化
有名な事例として「加齢臭」がありますね。これは長年体臭を研究していた化粧品会社の研究員によって名づけられたそうですが、 中高年の体臭に「加齢臭」という名前がつくことで、この問題に対する社会的な関心が高まった。その結果、中高年が自分の体臭を気にするようになり、中高年向けデオドラント剤の市場が拡大しました。名前のついていなかった漠然としたものに名前がつくことで、社会の関心が高まり、人のこころや行動を変えた代表例です。他には「おひとりさま」や「美魔女」も例として挙げられますね。詳しくは嶋浩一郎さんと松井剛さんの共著『欲望することば』を読んでみてください。

内山:
社会記号がいかに人の消費行動や市場をつくるか、という話ですよね。かなり影響を受けた本の一つです。

桃井:
BranCo!の話にもっていくと、この言語化・概念化されたものが、本当の「インサイト」なんです。
BranCo!のプレゼンでよく「インサイトはこれです!」と言っている学生さんは多いですが、正直言ってインサイトと呼べるものは少ないです。当たり前のことであったり、既に世の中で多く語られているものが多いですね。
インサイトは言い換えれば、アンメット・ニーズ。意識の氷山の下に「眠っている」もの。それを言語化・概念化によって意識の上に掘り起こしてあげることが重要なんです。

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岩佐:
BranCo!で重視するべきは「アンメット」の部分なんやね。生活者がまだ言語化していない自分のニーズにしても、社会の中で名前がついていなくて把握されていない事象でも。

内山:
実際にBranCo!で上位に入る作品の多くは、漠然とした概念を言語化していると思います。「暇」の優勝作品は、何もしないことを「ぼんやりング」と名付けた。

桃井:
それはとてもいいコンセプト。今まで「ぼんやり」に進行形はなかったけど、進行形にすることで能動的な行動としての概念を言語化して顕在化した。

岩佐:
内山くんの「逆秘密」も同じように、今までになかったものを言語化・概念化してるよね。


クリエイティブジャンプよりクリエイティブホップ

内山:
名前をつけることによってインサイトを浮かび上がらせることの重要性を教えていただきましたが、この「名前をつける」という作業におけるポイントを教えてください。

桃井:
ポイントは、「既存の概念から大きく変えすぎない」ということだと思います。元からある概念に1つだけ変更を加えたり、既存の概念を2つ組み合わせるだけだったり。逆に言えば、新しい概念が2つ以上出てくると、複雑になって、人はもう認識できなくなっちゃうんですね。
私がヤングスパイクス*で出した「First Aid Class」は、応急処置資格を持っている人をファーストクラスに案内する、というアイデアですが、これも「First Aid」と「First Class」という2つの既存の概念を組み合わせただけです。
(*スパイクスアジアで行われる30歳以下のプロフェッショナルを対象としたコンペティション。桃井さんは2015年と2016年に日本代表として出場しました)

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As is/To beが流行っていますが、「昔はこうだったけど、概念を1つ変えて、これからはこうなる」ということを明確に提示することが、「新しくてわかりやすい」コンセプトを考えるひとつの切り口になります。

内山:
なるほど!言語化のコツが見えてきた気がします。
BranCo!のコンセプトの採点基準にも、「新規性と納得度を兼ね備えているか」はありますよね。

桃井:
よく「クリエイティブジャンプ」って言うじゃないですか。それよりも「クリエイティブホップ」ってくらいがちょうどいいかもしれません。あまり大きくジャンプしすぎず、概念を1つ変えることで「新しくてわかりやすい」の両輪を実現する。

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内山:
「元の概念から大きく変えない」ということを前提として、より具体的な方法論はありますか?たぶんBranCo!に出てる人の多くがコンセプトをどう命名するかで悩むところだと思います。

桃井:
例えばですが、次のような方法がありますね。

1) 対句にする
「○○ではない、○○なのだ」という構文にしてみる。「ナンバーワンじゃなくてオンリーワン」や「リーダーとはお金を配る人のことではない。希望を配る人のことだ」が例です。これも先ほどの話と同じで、1つ変えているだけなんですよね。変化が1つだと理解できる。
2) 呼び名をかえる
どう呼ばれているか?を変えてみる。ディズニーがスタッフのことを「キャスト」と呼んでいるのが良い例です。
3) ギャップをつくる
相反するものを組み合わせてみる。蒸気自動車が「馬なし馬車」と呼ばれて人気になっていたという事例が良いギャップの例だと思います。
4) たとえる
何か他のものにたとえてみる。「草食系男子」がいい例ですね。「諦めたら試合終了ですよ」も実は比喩ですよね。
5) 連想する
これはかなり小手先の話ですが、「連想類語辞典」をよく使っています。類語を連想させていって、よりニュアンスに近い言葉、強くハマる言葉を探していきます。

他にも実践的な技法はありますが、私がよく考える代表的な5つを紹介しました。

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内山:
ありがとうございます!ためになりました!

岩佐:おもろいなあ。

内山:
かなりコピーライターとしての実践的な内容を話してもらいましたが、審査員としての視点でのお話も伺います。いままでのBranCo!で一番良かったコンセプトはなんですか?

桃井:
うーん、「みゅん」かなあ……。

内山:
え!ボヴェさんに同じ質問をしたときも、「みゅん」が挙がりました。散った後の桜や冬の海など、旬の裏側にあるものを「みゅん」と呼び、その魅力を喚起させるプロダクト……というアイデアですよね。

岩佐:
みゅんすげえ。(※ 桃井さんと岩佐さんは当時一緒にBranCo!学生スタッフをしていました)

桃井:
「旬」の「日」を「月」に変えて「みゅん」と読ませるっていうコンセプトだけど、これも一つだけ変えているんだよね。だから「新しいけどわかりやすい」を実現している。

内山:
BranCo!に出場する学生に意識してもらいたい点はありますか?

桃井:
「本当に?」をいろいろな視点で意識してほしいと思っています。私は業務で「この企画は本当に話題になるか?」を考えるために、ヤフーニュースの13文字の見出しを先に考えて、そこから逆算して企画を考えたりします。

内山:
僕も似たようなことをやっていました。だいたいBranCo!って決勝にいったら博報堂サイトの「センタードットマガジン」に載るんですよ。「こんな案が優勝しました」って3行くらいで案が説明されて。僕は過去の案がどう紹介されてるかを研究して、そこの記事に載る3行を想定して企画を考えていました。

桃井:
そこまでやったんだ!とてもいいね。私も、アワードのムービーの構成を先に考えたりもしています。ニュースやアワードに限らず、「それって本当に人が動く?」は考えてもらいたいですね。知り合いで一番ケチな人を思い浮かべて買ってくれるかな?とか。


実践編:この記事のタイトル=コンセプトを考えてみる

内山:
そういえばこの記事のタイトルを決めなきゃいけないんですよね。

桃井:
これってTwitterとかに載せるんですよね?そうなると、クリックしたくなるタイトルがいいですよね。「そのインサイトはインサイトじゃない!」とか。ちなみに新書のタイトルって勉強になりますよ。新書のタイトルにありそうか、も時々考えます。

岩佐:
「『インサイト』を使うのはもうやめなさい」とかね(笑)。

桃井:
いいね(笑)

岩佐:
「1つだけ変える」は面白い話だと思った。

桃井:
「斬新と感心のあいだ」は?「冷静と情熱のあいだ」みたいにできないかなって(笑)

岩佐:
「クリエイティブジャンプからクリエイティブホップに」とかは?

桃井:
あ~良い!1つ変えてるだけだから変化が分かりやすいね。

内山:
このタイトルを考える過程自体が、「新しくてわかりやすい」コンセプトの言語化の実践例ですね。


編集後記

今回は桃井さんに、事象やニーズの言語化・概念化という視点からコンセプトについて話していただきました。この話は「社会で話題になる言葉づくり」という意味でPR的側面も強いですが、ブランドデザインにも応用できる思考法だと思います。是非皆さんも今回紹介していただいた実践論を用いて、クリエイティブホップのあるアイデアを出してほしいと思います。

OUTPUT編に続く!

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桃井菜穂
統合プラニング局 コピーライター/プラナー

2014年東京大学卒。同年、博報堂に入社し、TBWA\HAKUHODOへ。2017年より博報堂ケトル所属。2020 年育休から復帰し、統合プラニング局所属。言葉を起点に新しい文化をつくることを目指す。2015年TCC新人賞。2015・16年ヤングスパイクス日本代表。2016年釜山国際映画祭New Stars ゴールド。2018年ACC賞シルバー。
岩佐数音
ブランド・イノベーションデザイン イノベーションプラナー

東京大学教養学部卒業/i.school修了後、2014年博報堂入社。初任ではグローバルチームに配属される。日本企業の海外進出戦略や、グローバル企業の社名・ロゴ開発などを担当。2018年よりブランド・イノベーションデザインに異動。Ars Electronicaとの協業や、未来洞察を起点とした事業開発などを担当。学生時代BranCo!では二次予選で敗退した。
内山
BranCo!2020優勝。本記事で紹介された『欲望することば』を一年前に友人から借りるもまだ返していない。


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