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『ミッドサマー』感想 ※ネタバレ注意

 話の展開としては、

①現代社会ならでは苦痛の提示

②それら社会から切り離された一見美しく牧歌的世界の現出

③独特の異文化に対する興味が不信感・恐怖心へ変転

④習わしに則り各々共同体の文化の一部となる(色々な意味で)

 このような感じ。

 自分的には根源的に誰もが共感できる部分がまずしっかり入っていること=リアリティに繋がる重要なポイントだと思っている。その点で言えば、本作品は比較的インパクト重視のビックリ&気色悪い演出をバンバンいれて狂気を生み出そうというような方法をとらず、あくまで風習に則った実際に実現可能なシーンで恐怖を生み出そうとしていたので、無理やり感がなく、世界観に忠実な展開だったためとても説得力があり、良い意味で嫌な生々しさが感じられた。(湿度というか温度感というのか……)

 そもそも、彼らは異世界の民ではなく、同じ人間(のはず)なので、儀礼や風習の大元には同じ人としての思想や感性が組み込まれているはず(=根源的に誰もが共感できる部分)で、実際、本作品にはそういった基本部分の構築があり、まずは「人として・文化としての基本をおさえる」という点にこだわりと丁寧さを感じた。

 具体的には――野外での食事シーンで、長的人物がグラスや食器に触れるまでは他は待機みたいな、立場の上のもの・年上のものを敬う、大切にするという普遍的な道徳観、あるいは権威に対して従順にある姿勢を示す場面――こういった身近かつごく自然な描写が多く盛り込まれていた。

 それら世界観の基盤となるものが、次第に強調&繰り返し描写されていたので「普通 → 徐々におかしい」という途切れのないグラデーションが生み出されており、外堀から埋めていくような手法で異常な印象を与えることに成功していたと個人的には思う。※「普通」も過剰であると途端に「異常」に変わり、不気味さを与える要因となる、というアレ

 もっとも共同体の人々にとっては、至って普通のことをしており、彼らは彼らなりの生き方をしているだけで、おそらく、そこに騙そう、陥れようといった「悪意」はなかったと思う。だから、その「悪意」を持たないという人間らしさの欠如が、かえって狂気を生んでいて、怖さ、気味悪さに繋がっていたように思う。純粋さ故の狂気。

 その辺の見せ方が上手く、そういった「異常性からくる恐怖の押し付けがましい感じ」がなく、一貫してテーマを守り、全てが「文化の範疇」に収まっていた点に好感が持てた。なので、構造的にシンプルであり、統一感を重視するある意味堅実な作りの作品なのではないかと思う。

 独特の雰囲気づくりとそれを壊さない「攻めた表現」に違和感がなく、新鮮でインスピレーションの刺激される作品だった。

 冒頭の主人公のおかれる環境や人間関係、ドラッグの描写については、触れなかった。

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