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台湾経済の虎の子・金塊を守護する極秘軍事施設「文園」とは?

こんにちは、黒熊です。


世界国別金保有数第14位にランクされている台湾。

その経済の核心を担う金保有量は約430トン、近年の金価格高騰によって現在の価値は約7,000億台湾ドル(※2024年7月時点日本円換算 約3.4兆円)と言われています。

これら金塊は、蒋介石率いる国民党が国共内戦に敗れ台湾へ撤退の際、戦争継続と経済基盤確立のための備蓄資産として移送したのが起源で、当時資産額は400万米ドル程度に過ぎなかったと言われます。その後台湾政府は、冷戦下米国からの要請に加え、台湾の世界経済市場価値と国際影響力を高めるため、金を定期的に購入し続けて今日に至ります。

今回は、その台湾政府が保有する金塊の収蔵国庫が存在する、極めて機密性の高い軍事施設「文園営区」について紹介します。

文園には、台湾中央銀行の保有する金塊が保管されている

文園営区の位置

台北市を取り囲むように隣接する新北市新店区。台北中心部から南へ下り、温泉保養地として名高い鳥來(ウーライ)に通じる台9号線・新鳥公路。鳥來老街の手前・約5km程、周囲を森林と山・川に囲まれた閑静な場所に「文園営区」が存在します。
(-GoogleMap 栗子園)

最寄りバス停はNo.849 系統 「栗子園」。そこから台9号線を50m程南へ行った場所にあまり目立たない唯一の出入口(衛門)があります。また道路に接する周囲200mにわたり高さ2mの堅固な壁が張り巡らされ、その上の鉄条網は進入者を防ぐため帯電しています。衛門では常時憲兵が睨みを利かせており、センサーや監視カメラが各所に多数設置されるなど、厳重な警備体制がが伺えます。

文園営区唯一の出入口・衛門(Googleストリートビューより)

営区内を警備しているのは、憲兵205指揮部(※台北市を除く、台湾北部を管轄)揮下の601連隊分遣隊で、約100名の兵士が任務に就いています。任務上警備隊員の選抜には、三等親内の職業をはじめ経済・生活状況や過去犯罪歴、信条・思想など多岐にわたる要素の、入念な調査を経る必要があるとされています。

他の営区と比較して、控えめながらも厳格な警備体制の理由・・・それは、この営区が他の軍事施設と異なり、台湾中央銀行(中華民国中央銀行)最大の金庫(国庫)が築造され、政府資産である莫大な量の金塊が収蔵・保管され続けている事実によるものです。

水龍と如意宝珠 ~風水で定められし土地

蒋介石下の国民党政府が大陸から移駐する際、持ち込んだ莫大な資産をどこへ収蔵するか?場所の選定に際し、諸条件要素から複数の候補地が提示されました。選定条件の中には中国の伝統に則り「風水」という要素も加味されていました。その点において着目されたのが鳥来区です。

(國家黃金命脈! 423噸黃金藏文園營區 -Youtube CTV中視新聞より)

空撮写真をもとに選定した所、北勢溪と南勢溪が交錯する地域・烏来。北勢溪のうねるような河川流の中に、中国伝統の架空の生き物である「水龍」のように見える箇所を発見しました。

水龍のように見える翡翠水庫と文園営区の位置関係(GoogleMapより)

確かにGoogleMapで位置を確認してみると、北東側に「翡翠水庫」というダム湖(※1987年竣工)が広がっており、曲がりくねったその川の流れは、まるでうねる水龍のように見えます。また水龍の対となる存在~それは龍が追いかける宝玉「如意宝珠」です。

中国で「龍」は「権力と富の象徴」であり、「如意宝珠」は「思い・願いを意のままに叶える力」が備わっていると言われ、漫画「ドラゴンボール」で登場する「7個集めると願いを3つ叶える球(ドラゴンボール)」のモチーフでもあります。古来より風水を重んじる中国の権力者らしく、恐らくは富と権力の象徴たる地形を相応しいと考えたのでしょう。

政府は、中華民国の繁栄と経済発展をを願い、この「水龍」が追う「如意宝珠」の位置に、金塊を収蔵する国庫建設を決定しました。

文園営区の警護体制とセキュリティ

まず、文園営区の地理的環境。アクセス可能な道路は台北から鳥來に向かう台9号線1本のみ。背後を険しい山と森林に囲まれており「守るに易く・攻めるに難い」地形。総面積約2万㎡に上る営区の構成としては、山中に洞窟が掘削されその内部に大金庫が築造されています。GoogleMapの上空写真からは、兵舎や管理施設などいくつかの建物のみ確認可能ですが、ヘリコプターなどによる空挺強襲対策として、重要施設は地下に設けられ網の目の様に地下通路があると言われています。
(-OpenStreetMap 文園營區)

営区外は警政署(警察)による定期巡察が行われ、営区内は前述の通り完全武装した憲兵隊員100名が常駐警備。加えて金庫最深層には中央銀行によって特別に任命された警備員が配置されています。外部との連絡手段として、中央銀行本部をはじめ・国防部・警政署・憲兵隊との間に24時間体制のホットラインが設けられ、万一襲撃を検知した場合は即応部隊として「夜鷹特勤隊」(憲兵特勤隊)出動に加え、至近の憲兵隊や警政署から増援が派遣される態勢が確立されています。

金庫へと到達するには、営区内に設けられた5つの検問所を通過後、耐弾耐爆構造の堅固なアクセスドアを3か所通過する必要があります。このアクセスドアを開放するためには、5人の要員に別個に付与された鍵とパスワードが必要。手順として5人全員がパスワード入力とキー操作を同時に行う必要があるとされています。

最奥部の金庫区画は一定の温度に維持されており、温度・動体・振動の変化を感知する最新技術の粋を集めたセンサーが何重にも張り巡らされています。これにより人間が内部に侵入すると瞬時に、体温と庫内の温度差を感知し、動体を感知し、庫内の物理的破壊行為による振動を検知して、警報を発する警戒システムが組み込まれています。またこれらのシステムは、常にその時代の最新技術にもとづくものに更新され続けていると言われています。

大金庫の構造と金塊の保管状況

大金庫は、営区奥の山中に洞窟が掘削され、その内部に特殊合金製で非常に堅牢な金庫室が構築されています。洞窟内殻と金庫外殻部の間には耐衝撃・耐振動のショックアブソーバーが設置され、金庫外殻の物理的破壊を検知する振動センサーが組込まれた完全なバブル構造となっています。

金庫洞窟内部の奥行は約30メートル、左右両側は二層構造となっていて、階段とキャットウォークが張り巡らされています。そしてトンネルの左右等間隔に複数の横穴(奥行き約6m)が掘られ、各横穴の左右に透明キャビネットや銀行の貸金庫のような引出し式キーボックスが並べられています。そのキャビネット・キーボックス内部に、購入年・価格・重量などの情報が記されたインデックスと共に、数本ずつ金塊を安置保管しているとのこと。

台湾のTTV台視の報道レポート内で、元国家安全局関係者や軍事ジャーナリストが語る所によると

金塊は分散・区画化されて施錠保管されており、これらを開錠もしくは物理的に破壊して奪取するには多くの時間を要する。

保管金塊の形状・大小・重量が多種多様で均一でなく、金塊そのもの高密度で重く人力搬出には困難を極める(大きい物で1個50kgを超える金塊も存在する)

金庫到達には地上・地下構造を上下する必要があるため、車輛や重機での侵入は不可能。

従って、一度に大量の金塊を奪取することが、限りなく不可能な仕組みが、警備面、営区金庫の構造面双方から、完璧な形で構築されている。

傳說中的神秘金庫 層層戒護台灣經濟命脈【熱線追蹤】精彩(TTV台視-Youtube)
こういうのアリエヘン・無理という事でしょう^^;

なお、台湾中央銀行は文園金庫における金塊の管理体制に関し、2019年発表したプレスリリースにて、公式見解を述べています。

1.文園の金保管庫は、民国91年(2002年)4月に改修されており、より良好な保管環境と完璧な管理体制が整備された

2.中央銀行の監督委員会は、年2回金の在庫リストを定期的に作成し、監督院財務経済委員会による年1回の検査を行い、立法院財務委員会は第105回・第108回会期中に、文園金庫の視察を実施し、金出入庫管理に関する帳票を査察実施した

3.中央銀行は国防部に対し、文園金庫警備のため常駐する憲兵隊部隊、および金庫の警護と安全確保のための支援に感謝する

本行文園金庫黃金保管之說明(台湾中央銀行)

(直擊國家「金脈」 央行神秘金庫價值6200億 -Youtube 57東森財經新聞)

台湾国庫に蓄えられた金塊資産の使途としては、今後もしも中台危機が更に高まり戦闘になった際の装備品や各種物資調達費用。また外交・宣伝世論戦費用として。そして経済制裁や為替操作と言った経済面での敵対行為に対抗する戦略的武器として用いる資産、という3つの側面が考えられます。

叙事詩「ニーベルングの指輪」では、神々から奪った財宝を守護する龍「ファフニール(ファーフナー)」が登場します。
一方、龍の鎮座する地に建設された「文園営区」は台湾の最高機密であり、建設から60数年たった今も神秘のベールに包まれたの存在と言えます。

台湾経済の命脈であり、世界と台湾を繋ぐ「保険」としての黄金。それを守護するファフニールとして「文園営区」の警備任務はこれからも続けられることでしょう。

それじゃ、今日はこの辺で。RTB.

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