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両側乳がんラプソディ #17 乳房再建術の決定

 二度目の形成外科の受診である。
 指定された診察室に、次から次へと患者が吸い込まれ出てきては吸い込まれていく。
 医師一人で何人の外来患者を診察し、週にいくつの手術をこなしているのだろう。多忙な職業はいろいろあると思うが、総合病院の勤務医がその筆頭に来るのも頷ける。

 案内パネルに自分の番号が表示され、私も診察室のドアを開けた。

 O先生がまとう空気はできる人のそれである。
 声は冷たくもなく必要以上に親密さも感じさせない(話しやすすぎても診察が長くなりそうだ)。
 まれに、ぎこちなく口元に笑みを浮かべる。
 きっと、患者を安心させるためである。
 私はO先生なりの気遣いを感じさせるその笑みが好きだ。

 「やはり両胸とも全摘でインプラントでの再建をお願いしたいです。」

 右胸は温存できると言われていたが、私の決心は変わらなかった。
 続けて、

「できれば乳頭と乳輪を温存してもらいたいです。」

 と要望を述べた。

がんの再発や転移はもちろん怖いが、それだけが理由で全摘とインプラントを希望したわけではない。

 私の中では、体に余分な傷がつかず、入院期間や手術の回数を抑えることができ、何よりせっかく「両側なので」、両胸のバランスがとれ、生涯、下垂の心配のないインプラントに不満はなかった。
片側なら健側との兼ね合いを考えて自家再建を選んでいたかもしれない。

自分が思っていた以上に胸やそのバランスにこだわるタイプであるということに驚きと気恥ずかしさ(なんか女性性を過剰に意識しているようだ)も覚えたが、プライドよりも自分の素直な気持ちを優先した。

「わかりました。両側のインプラントだと健側とのバランスを心配する必要もないですしね。」

 見透かされているのか、皆、考えることは同じなのか、私の心の声が先生の口から漏れた。

 O先生はパソコンに映し出されている写真と私の実物の胸を確認しながら、病巣の位置と(予想される)手術痕から見ると左胸の乳首が外側を向いてしまう可能性を指摘した。

 それについてはどうしようもないので、できる限り、傷口が目立たないように乳首もバランスよくお願いしたいとだけ伝えた。

「大きさはどうなりますか。」

 念の為、確認しておきたい。
 思春期の頃から大きな胸がコンプレックスで、年齢を重ねすっかりしぼみ下垂してしまった。
 生まれ変わる?なら、こじんまりと小さく、品の良い胸になりたい。

「残った皮に合わせて決めるので、基本的には今と同じかやや小さいぐらいになります。」

 自分で選ぶことはできないらしい。
 そりゃそうか、美容整形ではない。願望を叶える機会ではない。

「手術のために、いくつかサイズを用意しておいて切除した分に合わせて入れます。」

 神頼みならぬO先生頼み。

 診察室を出ると、看護師に呼ばれ小部屋に連れて行かれた。

 術式を決断した理由を改めて確認された。

 患者が冷静に判断できたのか、医師の説明に流されず、意思を持って決めたのか、後から患者が後悔しないようにするプロセス、通過儀礼なのだろう。

 私は希望した理由を改めて説明し、看護師はそれを書類に書き込んでいた。

 次にO先生に会うのは入院後であるという。
 つまり手術直前だ。
 まだ入院日も決まっていないので、だいぶ先のことのように感じる。

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