両側乳がんラプソディ #9 仕事と人生
私はがんに対して特定のイメージを持っていた。
命の危険があるとか、治療に専念する必要があるとか、日常生活が途絶えてしまうとか、その類の治療中心のイメージである。
だから、医師からがんであると言われた時、とっさに仕事ができなくなること、生活が変わることを恐れた。
働くことは生きる上で、食べていく上で必要なことであるから、できなくなるのは困る。
でも、それだけではない。
それだけではないことに一大事に直面し気づいた。
仕事は私の生活の基盤を支えてくれているだけではなく、私の心、いわばアイデンティティや生き方に埋め込まれ、人生を伴走しながら彩を与えてくれるものでもあったのだ。
治療中心になってしまったら、これからの人生だけではなく、これまでの人生すら否定され、無になる、自分がなくなる、それを私は心から恐れた。
いま思えば、思慮が浅く、愚かである。そんなことでしか自分を保てないのかと呆れる。
他に楽しいことや人生を充実させることがあるだろうとぼやきたくなる(実際あるのにいざとなると仕事に固執する)。
医師からの説明で、手術後すぐにでも働けると教えてもらい、まずはほっと一息つくことができたものの、この先の治療像や身体の状態が描けず、今後も全く同じ生活ができると確信するほど楽観的でいられる根拠もない。
できる限り、周りにかける迷惑を最小限に抑え、治療と並行して仕事をこなすことが当面の課題であり希望となった。