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#1 外食のノーマライゼーション

地方出張でのご馳走は、「ハレの日」の特別な料理だった。

大学を卒業後、約15年間、東京にある地域活性化のシンクタンクに所属しながら、地方のまちづくりに関わる仕事をしていました。

月の半分は地方出張という日々。仕事で仲良くなった地元の人たちと一緒に、美味しいものを食べて、夜通し語るのが出張の楽しみの1つでした。

仕事柄、出張先の地域でお会いする方の多くは、地元の事をよく知り、普段から飲食店をよく利用しているようでした。そういう方に連れていってもらう店では、かなり高い確率で、美味しい料理にありつけました。

いつからか、東京から地方に通うコンサルタントではなく、地域に根付いて地域活性化に貢献できる仕事がしたいと思うようになりました。

その思いを実行に移し、ついに、妻の実家がある富山県に夫婦ふたりで移住。しかし、実際に地方で暮らしてみると、「地方はグルメの宝庫で、美味しい店が山ほどある!」という認識が、ちょっと違うことに気づきます。

私が地方出張で体験した、あの美味しい思いは、東京人向けのハレの日の演出であって、その地域のなかでも特別な店であり、滅多にない特別な機会だったのです。

このことは、ランチの店を探すときに、よりリアルに実感しました。

当初は、大自然のなかの田舎暮らしに憧れましたが、東京との行き来を考え、住まいもオフィスも富山市内で借りました。移住2年目からは、妻もデザイン会社を起業して、中心市街地の賃貸オフィスをシェア。それから二人でランチをする機会が増えました。

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オフィスは、商店街通りに面しています。ざっくりと「市内の飲食店」という捉え方をした場合は、そこそこ店もありそうだし、ランチに困ることもないだろうと思っていました。ところが、利用者として、ある程度のこだわりを持って実際に探してみると、行きたい店がなかなか見つかりません。

さらに、オフィスから歩いていける範囲で探すのは、かなりの至難の業です。クルマで移動できる範囲まで広げて探しても、なかなか美味しいランチには、ありつけませんでした。

<店探しについての私たちのこだわり>
・サラダとか、野菜をたっぷり使っている
・肉よりも魚のほうが嬉しい
・和食に近い、和食ベースの献立
・化学調味料や精製食塩を使っていない
・しっかり作ったスープやみそ汁などが飲みたい
・価格:1,200~2,000円くらい

上記を見られて、ちょっと厳しい条件じゃないかと思われることは承知ですが、実はこんな事情があります。↓↓

特殊な事情によるこだわり、と言えばそれまでなのですが、「食のノーマライゼーション」という観点では、誰にとっても、より美味しく、より健康で安全な食事というベクトルに向かうはずです。

富山市のランチ事情が分かってきたころ、妻は、週に2、3回のペースでお弁当をつくってくれるようになりました。共働きなので申し訳ないという気持ちを抱きつつ、妻のお弁当を毎回楽しみにしました。

お弁当がある日は、ランチの時間が楽しみ。逆にお弁当がない日は、どこの店に行くかを考えるのが億劫でした。

需要があっても、需要を満たせない店?

富山市でランチ難民を経験してみると、そもそも需要がないから、店の数やバリエーションが少なのか? 仮に食材や料理にかなりこだわった店をオープンしても、お客さんが来ないのか?そんな疑問が湧いてきます。

今や中心市街地よりも、郊外の大型商業施設に店が集まる時代。しかし、ランチタイムに車で郊外に出かける人は少ないはずです。では、皆さんはどこで、どういう基準でランチをしているのか、ビジネスワーカーに、一斉アンケートしてみたい気分です。

<考えられる、ランチの選択肢>
・コンビニ弁当、テイクアウト専門の弁当屋
・チェーン店のレストラン&カフェ、ファーストフード
・個人経営のレストラン、定食屋
・社内食堂、売店
・愛妻弁当、じぶん弁当
・家に帰って食べる(職住近接、同一)

さらに、以上のような選択肢に対して、利用者がもっとも重視していることは何かもしりたいところです。

<考えられる、ランチに対する要求>
・自分の好みのメニューしか食べたくない
・元気の源なので、ランチは絶対にこだわりたい
・腹が満たされれば、ある程度は何でもいい
・お弁当しか食べたくない(味へのこだわり、食事制限など)
・まったくこだわりがない

地方は職住近接だと言っても、さすがに家に帰って食べるほどの近さではありません。弁当をつくる時間もなかったから、仕方なく外食をする人が多いはず。この「仕方ないから外食」という需要を、もっと深く考えていくべきだと思います。

私の持論は「見えているものはニーズじゃない」です。水面から泳ぐのが見えている魚は絶対に釣れない、みたいなもので、店の前の通りを歩いている人が多くても少なくても、ホームページのアクセスが多くても少なくても、それはニーズに直結しません。KPI(数値的な評価指標)の1つにはなるかもしれませんが。

地方の飲食店が儲からない理由を「人が少ないから」「景気が悪いか」としてしまうと、思考停止してしまいます。

富山県民が、外食に使う金額の全国ランキングを見ると、多くの食べ物も、全国平均より高いのです。共働き世帯が多いこともあってか、ランチ需要はそれなりにあると思います。

東京の飲食店であれば、ビジネスワーカーの会食需要によって、夜の売り上げがそれなりに見込めます。一見さん相手の商売でも十分成り立ちます。また、東京のオフィス街は「夜ごはん」の需要も高いです。残業の合間に近くの店で、晩飯を済ませる人が少なくありません。

一方の地方は、車通勤者が多く、都会ほど会食需要はさほど見込めません。それほど通勤時間も長くなので、腹が減っても我慢して、家で食事しようと思うはずです。ですから、地方の飲食店こそ、ランチに力を入れるべきではないでしょうか。

飲食店が儲かる秘訣。

秘訣は「お客さんが食べたい料理をつくる」です。そうです、当たり前のことなのです。その当たり前のことができないから、皆さん苦労されています。

大事なことは、見えないニーズを見る、と言いますか、皆さんが何を求めているのか、大づかみで考えるよりも、超具体的なターゲットを想像して料理を考え、あとは、それを求める層に届ける努力に集中すれば良いのだと思います。

流行っている店は、それ相応の努力をしています。いい意味でブレない哲学や美学があり、いい意味で考え方がすぐに変わります。お客さんとお店とが、対等な立場でいいコミュニケーションをしているようにも感じます。

数年前、富山市の路面電車通りに面したところに、お洒落なカレー屋がオープンしました。すぐに話題になり、20席くらいの小さな店はいつも満席で、入店待ちの行列ができる日もあります。多分、富山市では異例のことです。

このお店の登場によって、“お客さんは美味しい店だったら、並んで待ってでも食べたい”というニーズが富山にもあることが証明されました。また、周辺の飲食店オーナーさんは「富山でも行列ができる」と驚くとともに、勇気や希望を抱いたのではないでしょうか。

ウチ食 vs ソト食。

実は、富山に長く住んでみると「外食より家の料理のほうが美味い」という人が多いことに気づきます。つまり、プロがつくる料理のレベルが、家庭の味に負けている、ということです。逆に言えば、家庭でつくる料理のレベルが高いのだと思います。

数少ない経験ですが、農家のお家におじゃまして、普段食べている家庭料理をご馳走になる機会がありました。たまたまとは思えないほど、どの料理も美味しいのです。また、ご近所の漁師さんからのお裾分けに至っては、飲食店で出たら大人気になるだろうと思うレベルです。

さらに、突っ込んでいきます。

地方の飲食業界に潜む問題を、全国チェーンの店で垣間見たように思います。東京でも食べ慣れた、ハンバーガー、牛丼、定食、カフェなどの商品を、富山で食してみると、料理の質の違いがわかりました。

材料や調理法は同じだと思うので、味がすごく違うというわけではありません。調理に対する合格ラインが低いという感じです。例えば、焼き加減、ソースと具のバランス、温度、食感など。

一時は、自分が考えすぎなのではないかと思い、東京出張したときに、わざわざ富山で食べた同じメニューを食べてみたり、同じことを違うブランドのチェーン店で試してみました。

外食をあきらめないで。

料理をつくるプロ=食べるプロではないと思っています。食べる人の気持ちになって料理をつくれる人は、プロの人たちの中でも、ごく僅かな人数だと思います。確かに、自分の仕事を、客観的に自己評価することほど難しいことはありません。

つくっている料理が、お客さんからどう思われているか、どう評価されているかを知ることは大変難しいことです。しかし、そこをあきらめずに追求してほしいと願いします。需要があるのに、その需要に応えられる店が少ない、地方の飲食業界はそういう構造にあるはずです。

地方の食卓のレベルは高いはずなので、まず家庭でつくる味を超える、外食だから味わえる料理をつくる、ここを目指すことです。お店が思う以上に、お客さんの舌は肥えています。期待値も高いのです。

富山県の人は新しもの好きだから、店がオープンして最初は殺到するけど、なかなかリピートしないという話をよく聞きます。そうではなく、最初に行ってみて美味しくなかったから、もう二度と行かないというだけのことではないでしょうか。

富山のお客さんは、なかなか手ごわいですよ。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。






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