清掃のお兄さんが気になる件5終
前回まではこちらから見られます。
開けたドアの先に姿を現した長男は、パジャマのままだった。リビングに入ると、テレビがつけられている。「ずっと一人でテレビを見てたの?」聞くと「ううん、パパともちょっとあそんだ」と答えがあった。
奥の和室を見ると、布団の丸みが見える。私がこうちゃんとボールあそびをしている間、少し起きて長男の相手をした後、また寝たようだ。
「ボールがね、公園の植込みに入って、取れなくなっちゃった。だから戻ってきたんだ」長男に伝えると「植込みってどこ?」と聞かれ、説明するも、場所が思い浮かばないようで「見に行きたい」と言い出した。
パジャマ姿の長男、次男を連れて公園に戻る。公園ではさっきの男の子○○君がジャングルジムに登っていた。
「ほらね、あそこ。見えるでしょ。さっきね○○君のお母さんがバットで取ろうとしたけど届かなかったんだよ」
植込みの前に一緒にしゃがんで、長男に言う。「分かった」と納得してくれたので部屋に戻る。すると「ママ、これなら取れるんじゃない?」と数日前に、こうちゃんに見つけられ、押し入れから出された掃除道具を指した。
それはベタベタした粘着面でゴミを取る、通称コロコロ。しかしこれ、柄がめちゃめちゃ長くて1メートル以上はある。結婚前から夫が持っていた道具。うん。届きそう。間違いなく。
「やってみよう」という長男に付きあい、またしても3人で公園に行く。○○君はお母さんが次々に投げる球をバッティングしていた。
隙間にコロコロの柄部分を入れる。先がボールに届いた。ボールの横を弱めに引き寄せるように突くと、こちらに向かって転がった。
ボールを正面から突いて奥に転がし「ごめんね。やっぱり取れないや、明日頼むね」そう言う事も出来た。でも私には出来なかった。ボールを取ってあげたい、せっかく長男が思い付いたアイディアだし、期待に応えたいという気持ちが勝ってしまったのだ。
何度か突き、転がし、ボールは近づいてきた。手を伸ばし取ることが出来た。
長男に渡すと「やったー」とニコニコしている。長男の手にあるボールを見たこうちゃんも、嬉しそう。スーパーロングコロコロを持つ私と一緒に部屋に戻る。
ドアを開けると夫の姿が見えた。喉が乾いたのか、ジュースか牛乳を飲んでいたようだ。
「今ね、公園の植込みに入ったボールを取りにいったんだよ。バットでは届かなくてね。そしたら長男に、この棒なら届くんじゃないかって言われて」
スーパーロングコロコロに夫の視線が向いた。
「そしたら、本当に届いて取れたんだよ。すごいよね」
続けて言う。
「すごいね。長男君は、本当いろいろ考えられるようになったんだね」
寝起きの顔ながら感心したように言った後、長男の頭を撫でた。長男は大好きなパパに褒められ嬉しそう。
私の小さな落胆を誰も知らない。
完
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