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14. 保護回路

リチウムイオン電池パックには、何らかの保護回路が装備されています。


比較的安全であるとされるマンガン系のリチウムイオン電池や、コバルト系でもごく小容量のリチウム電池パックでは、電子回路による保護ではなく、 温度ヒューズ、電流ヒューズ、PTCやバイメタル型スイッチにより、パックの温度や電流量により、保護素子を動作させて放電電流を止める保護方式もあります。

電池の温度や放電電流の大きさを検出して放電電流を止めるだけで電池パックの安全が保証されるのは、非常に小型の電池パックまたは特殊なセルに限定されます。

 通常は電子回路によるいわゆる保護回路によって、 種々の状況における事故防止を図る必要があります。

通常行われている保護回路の保護の内容は下記の3項目です。

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過充電時の充電の停止


過充電時の保護は、多直の場合のトータルの充電電圧ではなく各直の、すなわちセル1本ごとの充電電圧によって保護されます。
これは例えば2直の場合に、トータル電圧が4.2V×2=8.4Vであっても、セルのバランスが崩れていれば、 極端な場合、3Vと5.4Vのような組み合わせもあり得るため、セルの過充電が発生する可能性があります。 

このため、各直の電圧を監視し、どこか一つの直でも、すなわちどれか1本のセルでも過充電であれば充電を停止するようにします。
過充電保護電圧は4.35Vに設定されることが多いようです。

これは製造バラツキが必ず存在する量産品において、正常状態を異常と判断しないための設定になります。
例えば、セルの充電電圧が4.2Vのとき、充電器は4.2V±0.05Vで、最大4.25Vが保護回路に印加され、 保護回路の過充電保護電圧設定を4.35Vとしたときに、設定バラツキ0.05V、更にマージンとして0.05Vを見込んでいるということです。

セルのうち1本でも端子電圧が4.35Vに達すると、保護回路が作動して充電を禁止するべく回路を遮断します。

 この状態で放電はできます。

電池を放電させて(もしくは過充電保護状態のまま放置して、セルの自己放電による電圧低下によって)、 セルの端子電圧が4.1Vに達すると、過充電保護状態が解除されて、充電が可能になります。

保護回路が外来ノイズにより、充電検出回路の電圧が瞬間的に4.35Vを超えることがあります。
例えば携帯電話では本体のアンテナが電池パックの保護回路のICの近くにあり、 電波が保護回路に飛び込んでノイズ電圧が発生します。

このときに保護が動作しないように、 通常は保護動作にディレーを設け、例えば1秒間にわたり過充電保護設定電圧を超えたときに、過充電保護が動作するようにします。


過放電時の放電の停止


リチウムイオン電池セルの電圧が0.6V以下になると、負極の塗布基材である銅箔の銅がイオンとなって電解液中に溶出し、 次の充電の際にはこの銅イオンが銅となって析出します。

析出する場所は元の基材ではなく、セル内部のいたるところに析出することとなります。

 特に容量低下に影響するのは正極に析出し、正極の機能を落としてしまうことです。

 また、銅イオンが電解液中に溶出した状態では、銅よりも鉄のほうがイオンになりやすい(イオン化傾向が大きい)ため、銅が金属として析出し、鉄がイオンとなって電解液中に溶出することがあります。

これは鉄缶の鉄が溶け出し、缶に穴が開くことを示しています。

すなわち、過放電電池を放置すると、鉄缶の電池に穴が開き、電解液が出てくることがあります。

電解液は導電性があり、これがプリント板上に付着した状態で充電すると、充電電流が電解液内を流れ、プリント板が発熱、発煙、発火することもありえます。

UL認定されたプリント板であっても、UL認定とはエネルギー源を取り除いたら炎を出さないというものであって、エネルギー源がある限り、燃えます。すなわち、場合によっては火事になるということです。

このように、セル電圧が0.6Vを下回ると、回復できないセルの劣化が発生します。

 放電特性カーブからもわかるように、3V以下では容量がほとんどなく、放電させると急激に電圧が低下します。 

特に2.3V以下では放電させると非常に短時間に0.6Vを下回ってしまいます。 このため、セルの電圧を監視し、どれか1本のセルでも、例えば2.3Vに達したときに放電を停止します。

 過放電保護状態でも充電はできます。

過放電保護状態を解除するためにはセル電圧を2.3V以上にします。 

保護用のICの種類によっては、過放電保護状態の解除のためにはセル電圧を3V程度にまで上昇させる必要があるものがあります。 

これは、過放電保護状態になるのは、何らかの問題があることが多く、その状態は電圧復帰で自動的に解除するのではなく、 積極的に充電を行って、意図的に解除する必要がある、という設計思想といわれています。

過放電保護動作にも若干のディレーを設けますが、過充電保護のディレーほどは長くしないのが一般的です。

外部短絡などの大電流放電の停止


過電流保護は外部短絡などにより、大電流が流れ続けることを阻止します。通常は電流検出のために放電スイッチ用のFETのON抵抗での電圧ドロップを監視し、 この電圧が設定値を超えたときに放電を停止させます。

例えばノートパソコン用のパックでは最大放電電流が3A程度であり、 過電流保護電流はその2倍から3倍程度に設定するといったイメージです。

過電流保護は積極的にはディレーを設けません。

以上の3種類の保護を行うためには、いくつかの半導体メーカーから発売されている標準の保護ICを使うことが一般的です。 

標準ICは単セル(1直)用、2直用、3直及び4直用があり、それより多直の場合はこれらを組み合わせて使うことができます。 

たとえば7直であれば3直と4直に分けて保護を行います。

ただし、充電用及び放電用のスイッチに使われるFETは、多直の全電圧が印加されたときにもつような耐圧の物を使う必要があります。

保護回路は当然、故障や誤動作をゼロにすることはできず、携帯電話用などの小容量のパックを除いて、何らかの保護機能をダブルにすることが必要になります。

 上述の保護回路がメインとなり、2つ目の保護機能はメインの保護機能が動作しないときに保護を行います。

したがって、二重保護は動作後に電池パック機能が回復しない場合もあります。

例えば、ヒューズ(電流ヒューズ、温度ヒューズなど)を二重保護にする場合には、ヒューズが断線すれば電池パックは機能しなくなります。

メインの保護が働かないのは明らかな故障であって、保護機能が故障状態にあるものは安全上再使用不能とするものです。


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*2006年当時のお話をもとにしております。


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