「古臭い」日本人的な働き方のルーツ

 こんにちは。最近宗教の歴史を遡ることにハマってます。

 特に儒教は日本人の生活に深く根ざしており、我々日本人の価値観がいかに儒教の教えの影響を受けているか、という発見が多く、とても面白いです。この記事はその儒教と日本人の「働き方」の関係に注目したいと思います。

 昨今、「働き方改革」を始めとして多様な働き方が提唱・認知され、日本社会全体が働き方を変えようとしています。また、企業の社員という枠に縛られず、副業したり、起業することが何となくカッコイイという風潮がありますよね。

 時代に即した働き方に変えることは素晴らしいと思います。一方で、古いものはダメだ!と頭ごなしに否定するのではなく、その背景歴史を知った上で変えるべきことと、変えないことを分けるべきではないか、と個人的に思ったためこの記事を書きました。長文ですが読んでみて下さい。


昭和ー平成の働き方


 戦後の高度経済成長期、日本人サラリーマンはまさにモーレツ社員だった。深夜まで残業し土日も関係なく働き、一つの会社に一生奉仕することがある種の「素晴らしい」働き方だった。
 日本社会がその働き方を望んだのは会社の成長と個人の給与が右肩上がりで伸びることが保証されていたからである。プロジェクトが成功し、会社の事業規模が大きくなり、給料は増えた。社員は欲しい物が買えて、働き詰めの夫に対する家族の不満も解消された。
 会社は社員の終身雇用を約束することで、社員は仕事に100%集中し、その会社の技術やスキルを習得することができ、さらなる成果を出す好循環がうまれた。

 この働き方文化が「日本人的労働」であり、よく典型的な昭和・平成の働き方ではないだろうか。

日本人的労働の限界と新しい働き方        

 前述の通り、これは右肩上がりの成長が保証されているからこそ継続できる働き方である。バブル崩壊から失われた10年とその後の時代には、右肩上がりが前提の仕組みが合うはずなかった。
 日本人は持ち前の真面目さで働こうとしたが、2010年前後から長時間労働や過労死問題が世間的に広く知られるようになり、労働基準法遵守と労働時間の適正化が叫ばれるようになった。
 今や長時間労働はかっこ悪い働き方の代名詞であり、短時間で効率的に仕事をこなしアフターファイブはジムと語学勉強をする人が目指すべき若手ビジネスマン像である人も多いのではないか。
 また、物質的より精神的幸福を選ぶ人が増えて、金銭で職業を選ばず、「自由さ」や「自己実現」を基準に仕事を選択する人が増えた。
 もはや有名企業で働くことはステータスでも何でもなく、起業やフリーランスなど個人主体の働き方を選択することが「実力ある」人と捉えられるようになった。

 これら長時間労働の是正と働き方の多様化は、高度経済成長期から続く日本の働き方の西洋化あるいはグローバル化と言えるだろう。


日本人的労働のルーツとは?

 では日本のサラリーマンの「古臭い」労働観のルーツとは何か?

 今や優秀な日本人ほど日本的労働を嫌い、西洋的な「個人主義的な」「自由な」働き方を楽しんでいる。しかし古い働き方は劣ったものとして全て捨てて良いのだろうか?第二次世界大戦後、世界的に見ても突出した成長率を誇った日本。そこで作り出された労働文化には学ぶ所もあるはずではないか。

 次から日本人の価値観の根本に存在する朱子学を知り、日本人的労働との関係をみていきたい。

日本人の価値観の基礎となる儒教

 朱子学を知る前に儒教を知る必要がある。儒教は孔子が創始した哲学・宗教である。儒教はその後日本に伝えられ、現在も日本人の道徳観の基礎になっている。
 日本人が礼儀正しかったり、謙虚で真面目な性格の人が多いことも儒教の教えてが現代まで生きているからである。
 災害の際にキチンと列を作り、配給に並ぶ映像を見たことがある人も多いだろう。これは儒教の「仁義」に則った行動である。私利私欲にとらわれず、周囲の人々の気持ちを考えて行動することが正しい行いであると皆が認識しているため、皆が列に並ぶことができるのだ。
 儒教が存在しない国で災害が起こったら暴動や盗みが横行するだろう。

孝と忠を重んじる朱子学

朱熹


 朱子学はその儒教から派生した学問である。12世紀に中国の朱熹(画像)が創始し、日本では江戸時代に広まった。
 これを推進したのは徳川家康である。天下統一を成し遂げた家康は、統一直後にまだ政情が不安定で大名が反乱を起こしかねないことを懸念していた。そこで朱子学を利用しようと考えたのである。

 朱子学の特徴は儒教に比べて「孝」「忠」に重きをおいているのが特徴である。「孝」とは親孝行といえば分かりやすいだろう。親の人間を敬うことである。「忠」とは忠義、忠誠というこよばから連想される通り、君主に尽くす心を指している。

 中国の朱子学では「孝」を最上位におき、「忠」がその時点にくる。そのため中国人は組織に対する忠誠よりも両親への孝行を大事にする。
 一方で日本では「孝」と「忠」を同等に扱い、区別しない。(忠孝一致)これは徳川家康が導入したときに意図的に変更している。理由は前述の通り全国の大名が家康に忠義を尽くさせることを狙ったためである。

 この朱子学の忠孝が江戸時代の武士道の規範となり、明治以降の学校教育や大日本帝国軍で教育されてきた。つまり我々の考え方や思考も朱子学の影響を受けているところが多い
 最初に説明した高度経済成長期の企業と社員の関係もまさに朱子学に基づく。

 社員は一生その会社に忠誠を誓い、その会社に奉仕する。一方で会社は福利厚生を充実させ、クビにせず家族のように扱う。会社と社員の信頼関係は強固になり組織全体のチームワークやトップダウンのコミュニケーションがスムーズになる。
 会社の目標が明確になれば、それに向かって突き進むのは非常に楽だ。朱子学的な組織は右肩上がりの時代には非常に合っていた。

 また現代においても日本人の上下関係での信頼関係の強固さは非常に大きな強みだ。海外出向等で欧米で働いたことがある方なら、欧米でローカルを率いてマネジメントすることがいかに難しいことか共感してもらえるだろう。プライドが高く、個人主義的で上司の指示を真面目に聞かない部下ばかりと、上司の指示を素直に受け入れ、一生懸命取り組む部下ではどちらが早く目標に到達できるだろうか。

 一方で、朱子学の欠点は閉鎖的・排他的になりやすいことである。
 実際に終身雇用制のように会社と社員の信頼関係が、人材の硬直化を引き起こす。新しい考えを生むことが難しくなり、複雑な環境で素早く判断し行動する組織には向いてない。
 現代の経済成長はある国の事件をきっかけとして世界全体が影響を受ける。リーマンショックや今年のコロナウイルスがまさにその典型である。
 またIT技術の進歩とインターネットの普及によりイノベーションが加速し様々なビジネスが日々変化を求められる複雑な社会となっている。

 このような時代に多様性と複雑性に富んだ今の時代には合ってないのである。


まとめ

 箇条書きでポイントを列挙する。
・儒教は現代日本の慣習を形作っており、日本だからこその礼儀正しさやサービス精神は儒教の影響が大きい。
・高度経済成長期の働き方は江戸時代以降の朱子学が基礎となっている。
・朱子学の忠孝の考え方が会社と社員の強固な信頼関係を作っている。これは現代でも強みになる。
・朱子学の欠点として閉鎖的・排他的になりやすく、これは今の時代に合っていない。

 


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