見出し画像

【ドキュメンタリー映画】「マリウポリの20日間」&「ファニー~もう一人のメンデルスゾーン」

[テキスト]
「なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか」(講談社現代新書)想田和弘(著)

「21世紀を生きのびるためのドキュメンタリー映画カタログ」國分功一郎/原一男/岸政彦/想田和弘/坂口恭平/坪内祐三/九龍ジョー/真魚八重子/開沼博/雨宮まみ寺岡裕治(編)小林エリカ(イラスト)

「ドキュメンタリー・マスタークラス」金川雄策(監修)

■マリウポリの20日間

ロシアのマリウポリ侵攻後に、現地に残って撮影を続けた唯一のジャーナリストの記録。

そして、ウクライナ戦争の初期、最前線に残って取材を続けたAP記者のレポートでもあります。

自分の身に危険が迫っている状態の映像のため、

・アングルだの

・撮影場所だの

気にかけている場合ではなかった事が窺い知れる映像です。。

生々しいという意味では、

・4歳で命を落とした少女の姿

・爆撃で両足を吹き飛ばされたサッカー少年

・息子を失った両親の悲嘆

・生家を破壊されて絶望する老婆の表情

・空爆のなかで治療を続ける医師の姿

・爆撃を受けた病院から救出された臨月間近の妊婦

等々、これ以上ない、現場の記録です。

そもそも、敵に包囲された街で起きた悲劇を、その内側から収めた映像なので、殺戮の映像が、延々と続きます。

そのため、苦手な方には、お勧めし辛いものの、一見の価値のあるドキュメンタリー映画だと思います。

ただ、気になる点として、私は、この映像を、日本で見た記憶がありません。

みなさんは、見たことがありますか?

APとは、Associated Press社、アメリカの非営利通信法人である。

フランスのAFP、イギリスのロイターと並ぶ、世界三大通信社のひとつです。

ピューリッツァー賞が、19171年に創設されて以来、32の写真部門を含む54の同賞を受賞したというのは、同社の実績のごく一部なんでしょうね。

「国境なき記者団」に依ると、日本の報道自由度は、世界180か国中70位であり、G7では、最下位だそうです。

理由は、はっきりしており、

「記者クラブの存在」

「新聞社とテレビ局が同一資本に支配されている」

「マスメディアは広告主に逆らうことができない」

の3つではないかと推定されます。

言わずもがなではありますが、日本のメディアは、権力及び資本との距離が近すぎます。

日本には、

「言論の自由」

はあるが、

「報道の自由」

はない、ということなのかもしれないと、改めて、そう考えさせられる映画体験でした。

■「ファニー~もう一人のメンデルスゾーン」

19世紀前半のドイツの作曲家でピアニストのフェリックス・メンデルスゾーンの姉で、同じく作曲家でピアニストであったファニー・メンデルスゾーンの生涯を取り上げた新作ドキュメンタリー映画です。

女性の役割が、今とは全く違った時代。

ファニーの歌曲のいくつかは、弟の名前で出版されました。

彼女は、一生のうちに、450曲近くの音楽を作曲しましたが、そのうちの多くは、出版も、公の場での演奏もされていません。

F. メンデルスゾーン=ヘンゼル「ピアノ・ソナタ ト短調 第4楽章」

F. メンデルスゾーン=ヘンゼル「アダージョ 変ホ長調」

この映画では、最初は、弟によって書かれたと信じられていた彼女の失われた『イースター・ソナタ』のオリジナル楽譜を探す過程が詳細に紹介され、同時に、彼女の人生も描かれています。

Fanny Mendelssohn - Easter Sonata in A Major / World Premiere (Century’s recording: Eric Heidsieck)

ファニーの音楽は、この映画の中で、デッカの録音アーティストである、イサタ・カネー=メイソンによって演奏されています。

結婚式に参加したことのある人は、誰でも耳にするであろう、フェリックス・メンデルスゾーンの『結婚行進曲』。

メンデルスゾーン「真夏の夜の夢 結婚行進曲」

この曲は、おそらく史上最も人気のあるクラシック曲の一つです。

けれどもフェリックスの家族の中で、彼だけが、天才だったわけではありません。

1972年に発見された知られざる『イースター・ソナタ』の作曲者であるファニーがいます。

このドキュメンタリー映画で、クラシック音楽の愛好家たちから、長い間、無視されてきた作曲家の非凡な人生を明らかにし、フェリックス作とされていた、失われたこの傑作が、実は、ファニーによって作曲されたものであることを証明しようとしています。

カリスマ・ピアニスト、イサタ・カネー=メイソンが、200年前に生きていた、非常に、現代的な女性の、このストーリーの中で、ファニーの音楽を、美しく蘇らせています。

【女性作曲家のクラシック】
女性作曲家のクラシック~Classical Music by Female Composers

【参考図書】
「もう一人のメンデルスゾーン ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの生涯」山下剛(著)

「ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル 時代に埋もれた女性作曲家の生涯」ウテ ビュヒター=レーマー(著)宮原勇/米澤孝子(訳)

「女性作曲家列伝」(平凡社選書)小林緑(編)

「五線譜の薔薇 音楽史を彩る女性たち」萩谷由喜子(著)

「音楽史の中の女たち なぜ女流作曲家は生まれなかったのか」エヴァ リーガー(著)石井栄子(訳)

【参考記事】

【参照記事】
映画のドキュメンタリー性の変遷 第1回
ノンフィクション映画の発生に関する幾つかの問い


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?