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ラオス-ヴィエンチャン-LGBT②

「あら、また会えたわねー。」

蒸し暑い安宿の部屋を飛び出し、真夜中の散歩をしている最中、静まり返った夜道に聞き覚えのある声が響き渡る。周りに誰もいない。僕は声がする後ろを振り向いた。するとバイクに跨った女性が微笑みながら手を振っている。

(あ、あのニューハーフだ)


数日間ヴィエンチャンに滞在した後、僕はヴァンビエンへと向かった。

ヴァンビエンはヴィエンチャンからバスで4時間ぐらいかかる山中にある小さな街。この街はバックパッカーが長期滞在する事で有名であり、かつてはインドのゴア、ネパールのカトマンズと並んで、欧米人らヒッピー達が群がってヴァンビエン滞在を満喫していたらしい。

日本人の間では(少なくとも僕が出会った旅人達)、ドラゴンボールに出てくるような風景が広がっていると揶揄されていた。だが、実際にその街に行ってみると、風光明媚な風景までもいかないが、宿によってはバルコニーから写真ような景色が見られる。バイクを借りて山の方へ走ると、その先には青色のラグーンが数か所あり中で泳ぐこともできるし、浮き輪に乗って川下りのアトラクションも楽しむ事もできる。

ラオスの物価だが、ラオスは周辺国から輸入している物が多いことから、タイやベトナムより同じか少々高くなっていると思う。首都ヴィエンチャンはタイバーツが使える店もある。

ヴァンビエンの屋台は安くて美味しい。鳥の半身焼きがもち米・野菜付きで200円ぐらい。無論パクチーもついてくる。当時はパクチーが嫌いだったが、今では匂いを嗅ぐだけで偶に南国での記憶がフラッシュバックする時がある。それは唐突にして。匂いによって紐づいている記憶も異なるのであろう。スーパーでパクチーを持ちながら恍惚な表情を浮かべる姿。当時の彼女から「・・・何やってんの?あんた変態?」など言われた。

その街に長期滞在する理由は人それぞれだと思うが、知ってる人には説明するまでもない。詳細を綴りたいけれども。。。

僕がラオスにハマる理由はやはり人なんじゃないかと考える。丸くて人懐っこい表情。素直でのんびりしてる。ぼられた記憶がほとんどないし。兎に角なぜか安心出来るのだ。ラオスにいると。ぼられるという表現はあまり好きではないが、ベトナムではトラブルやめんどくさい事が続き大変だったから余計にそう感じているのかもしれない。

初めて訪れた時は学生時代の時。その時は、安宿の値段が個室で2ドルだった。勿論風呂トイレは共通。宿に現在では必要不可欠なWifiなんぞあろうもなく、かろうじで街中に小さいネットカフェがあったぐらいで、情報なんて旅人に聞いて入手するか、日本人ノート(日本人宿によくあった)と呼ばれるものをみて確認するくらい。

情報は生モノなので、時が経てば段々と腐っていき、信憑性が薄まっていく。それでもそれらの情報は大変貴重なもので、未知の街や地域に行くのに勇気を与えてくれる。僕の場合は中国ー雲南地方を巡るのに大いに助かった記憶がある。

河沿いに建てられているオープンレストランで、生暖かい風を受けながらマンゴージュースを飲み、宿に置き捨てられた文庫本を、備え付けのクッションに横たわりながら読むのが日課だった。従業員も暇なのでみんな寝そべって昼寝をしている。

そして夜は、旅人との間で旅談話が始まる。凄く楽しい。小さい街なので数日も滞在すれば顔見知りになり仲良くなる。だけれども兎に角、互いに干渉しないのというのが楽でよい。旅スタイルは人それぞれ。黙々とモクモクする者もいれば一人で桃色の蛍光色が灯るお店に行く者もピザでハッピーになる者も。

2,3年に一度のペースでラオスを旅行しているが、ちょっとずつ国が発展しているのを実感している。物価は上がっているし、走っている車の数も増えた。ヴァンビエンの話になるが、今は韓国人旅行者で溢れている。どうやら韓国の芸能人がテレビで紹介した事をきっかけにして、旅行者が爆発的に増えたらしい。街中にハングルの看板が並んでいるし、韓国食材の店もある。

2年前に訪れた時、ヴァンビエンへ向かうバスの乗客の8割以上が韓国人だったのは驚いた。家族であのヴァンビエンに??とその時は思った。大きい麦わら帽子と白色のワンピースとスーツケースを持った女の子。ソウルーヴィエンチャンの直行便があるのは便利だけれども、お手軽にいけるようになった事は、なぜか自分の中ではモヤモヤすることが正直ある。しかし事実として、その時はその路線でラオスに向かって楽に行ける恩恵を預かっているわけだから、自分勝手に思考を押し付ける事はまったくをもって傲慢であろう。「ヴァンビエンは変わっちゃったね。」とドイツ人と話したことを思い出した。

ヴァンビエンの話ばかりになってしまった。

もっと書きたいや言いたい事があるけれどもまたの機会に。



そうしてヴィエンチャンに戻って、真夜中の散歩中に再会したのだった。

「元気かい?」

「ええ、元気だよ。今日はちょっと疲れちゃったわ」

確かに前回会った時と比べて、声色が低い。胸元を強調した服が少しヨレている。初対面でもない僕に、対して気にしてはいないんだろう。

「アメリカ人のオヤジがでかくて。。。顎が疲れた」

そう言って左手で顎を触る。そのまま掴んで指を上下にゆらしマッサージをしている。細長く、骨格のよい手が見て取れた。

「そうか、それは大変だったね。アジア人だったら楽勝でしょ?」

「人によるわ」

胸元に斜めがけしたバックから煙草を取り出しライターで火をつけた。その火が疲れた彼女の顔を照らす。火が消えると同時に彼女の顔も暗闇に消える。なぜだか少しゾワッとした。

「どこに行ってたの?ずっとヴィエンチャンに居たの?」

僕はヴァンビエンに行ってた事を話した。

「あの付近が私の故郷なのよ。いい街でしょ?」

そうだね。好きな街の一つだよ。と答えた。

「ヴァンビエンも好きだけど、ヴィエンチャンの方が街が大きくて楽しい。そして仲間も沢山いるから、仕事がしやすいの」

なるほどと思った。確かに他の街では彼女のような人はあまり見かけない。

話しているうちに警戒心が解けてきたのだろうか。僕は彼女に興味が出てきた。彼女がヴィエンチャンでどういう生活をしているのか知りたくなってきて、妙な好奇心が湧いてきた。

「良かったら家に遊びに行ってもいいかい?」

予想外の言葉だったのだろう。少し驚きつつも、嫌そうな顔ではなく平然として、

「今から?別にいいわよ。ちょうど帰るところだし。じゃあ後ろに乗って」

と、バイクの後部座席をパンパンと叩く。言われるがままに彼女の後ろにまたがった。

「飛ばすからしっかり摑まっててねー」

そう言って火のついた煙草を道端へ投げ捨て、アクセルを回し走り始めた。何処へ向かうのだろう。どのくらい掛かるのだろう。何処へ連れていかれるのだろう。何も分からないまま、肩幅の広い女性の肩に手を添え、共に街灯に照らされた夜道を走る。走る。

これもヴァンビエンの魅力なのか。

心の中でそう思った。でも大丈夫だ。なぜならここはラオスなのだから。





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