見出し画像

⚾️役割は一つだけではない。中継ぎのヒーローが教えてくれたこと。

先発だけがヒーローではないことを、恥ずかしながら私は大学野球で知った。

投手には先発、中継ぎ、抑えと三つの役割がある。そんなこと、野球好きであればご存じのことだろう。私も当然の顔して知っていたわけだが、先発こそ花形であるという固定観念が拭えなかった。試合の全てを支配するのは、先発投手であると信じてやまなかった。その概念をぶち破る存在に出会うまでは。そう、帝京大学の粂直輝投手だ。

粂投手は二年次より起用される機会が増え、リリーフエースの座についた。どんなにピンチが訪れても、必ず粂が救援してくれる。見る者に安心感を与え、冷静な振る舞いで淡々と打者を抑えた。チームの柱であり、守護神だ。球場にいる誰もがそのピッチングを信頼した。

帝京大学には豊富な投手陣が揃う。絶対的エースの岡野佑大投手や、気迫溢れる投球を見せる西澤投手。技巧派の鈴木投手に、大型の戌亥投手。個性派ぞろいの投手陣それぞれ、与えられた役割を理解している。だからこそ、しっかりとしたチームの基盤が作られたともいえる。その中で粂投手は、中継ぎという重要な役目を任された。


最後のシーズンこそ、リリーフエースで圧倒的な存在を見せつけた。しかし、そこに至るまでの道のりは、決して平坦なものではなかっただろう。先ほども紹介した通り、チームには多くの投手陣が揃う。最適なポジションというのは、本人の想像とかけ離れている場合もある。それを落とし込み実践するのは、とても大変なことだ。それができたのは、自身が役割と意味を十二分に理解していたからだろう。

忘れられない試合がある。2021年9月19日の武蔵大学との試合だ。近年の首都リーグはどのチームも実力が均衡しており、どこが優勝してもおかしくない。優勝と最下位が紙一重な中で、毎試合緊張感は増す。この日も緊迫した試合が繰り広げられていた。

帝京大学の先発であった鈴木投手にかわり、7回からマウンドを任された粂投手。しかし、この日は絶不調であった。武蔵大学打線につかまると、一気に四点を奪われた。逆転を許したことで、降板を余儀なくされる。やってしまったといわんばかりの、苦しい表情は今でも忘れられない。


帝京大学 粂 直輝 投手(明秀日立)

中継ぎに期待をされるのは、ゲームを維持することはもちろん、抑え投手に熱を繋ぐこと。優勝か最下位か紙一重のリーグ戦だからこそ、その重圧は並大抵のものではなかっただろう。


切り替えるのに、時間がかかりそうだ。


そんな本音をポロっともらした。二年生の頃からマウンドを守り、リリーフエースの座をゆるぎないものとした。三年次はコロナウィルスの影響で春季リーグ戦が中止になり、秋は怪我で離脱をした。最後は絶対に優勝したいという強い思いがあった。だからこそ、その悔しさは計り知れない。

これだけチームを守ってきたのだから、一人で背負い込まないでほしい。私はそれだけを願った。中継ぎというポジションの素晴らしさ、投手は先発だけではないということを教えてくれた粂投手に、心からありがとうと伝えたい。

そんな粂投手は来季より東芝に進む。新しい道で、どんな起用をされるのかは未知であるものの、きっと何かをやってくれると信じている。最高の活躍を見せてくれると期待している。

―――

先発こそが投手の全て。視野の狭かった私は、投手の役割なんて一ミリたりとも考えていませんでした。むしろ、先発になれない事情があるのだろうとさえ思っていました。その常識を覆してくれたのが、粂投手でした。

先発も中継ぎも抑えも、全て立派な投手の役割です。与えられた役目を果たす姿は、とてもかっこいいものです。先発にこだわっているのは、投手本人ではなく私だけだったのかもしれません。

投手交代の瞬間は、球場の雰囲気そのものがかわります。その空気が私は大好きです。きっとなにかやってくれるだろう。絶対に守り抜いてくれるだろう。粂投手には、そんな安心感を覚えていました。

長らく帝京大学の抑えとして活躍し、チームを牽引してきました。これから先の輝くポジションは今までとは違うかもしれません。しかしどんな役目を与えられても、粂投手ならやり遂げるのだろうと、私は信じています。

同じことをやるにしても、役割は一つだけではない。野球に限らず、選択肢がいくつもあることを、私たちも頭の片隅に入れる必要があるのかもしれません。こだわりを強く持つことも大切ですが、その固定観念が自分の可能性を狭めています。それに気が付けるかどうかで、未来は変わるのではないかと思うのです。

これからの未来も、より一層素敵なものに。今後の活躍も期待しています。


いただいたサポートは野球の遠征費、カメラの維持費などに活用をさせていただきます。何を残せるか、私に何ができるかまだまだ模索中ですが、よろしくお願いします。