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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(6)

 5年生のイチタは主にライトを守った。打順は6番が多かった。
 6年生6人、5年生5人、4年生3人で構成されたチームで、イチタはいつレギュラーを下ろされても不思議ではない実力だった。
 
 監督は穏やかで声を荒げるタイプではないが、子ども達とのコミュニケーションがあまり得意ではなくシビアな一面も持っていた。家で素振りをしていない子はすぐに見抜いて打順を下げられ、試合中にミスを2回すると懲罰交代させられた。

 私はイチタに毎晩素振りを200回させた。
 試合後は、私が撮影した動画を見ながら2時間かけて反省会をした。
 バットは高価で良く跳ぶものに買い換え、雨で練習が中止になるとバッティングセンターに連れて行って何時間も打たせた。

 他の父親も私のように変化した。
 勝つ喜び、そしてわが子の活躍がもたらす興奮というのは常習性があるのだろう。そして「もっと、もっと!」と欲が出て、いつしか親の方が熱中してしまう。
 
 振り返ってみると、この頃イチタがどんな表情で野球をしていたか私は全く覚えていない。楽しそうに野球をやっていたのだろうか。
 私が見ていたものはといえば、イチタの投球フォームやバッティングフォームが崩れていないか、練習通りにできているか、そして監督がどんな表情でイチタを見ているかだった。
 

 

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