【泣】少年野球に熱中した父親の末路(23)
その夜はお決まりのファミレスで打ち上げが開かれた。
皆の話題は劇的なさよならホームランで勝利した準決勝に終始し、あっけなく負けた午後の決勝戦は無かったことにされていた。
ミツキはその日のヒーローとしてもてはやされ、私もまた「よ!ヒーローのお父さん!」などとからかわれて顔が緩みっぱなしだった。
皆の酔いが回ったころ、一番親しくしている父親に「明日からどうするんですか内野さん」と聞かれた。その言葉に他の父親も「13年もやってきたんだから今更カタギには戻れないでしょう」などと同調し、人数が増えすぎた低学年のBチームを二つに分けてCチームを作り、そこの監督になったらどうかと言い出す人まで現れた。
私はとんでもないと何度も首を振った。
「私は勝手な人間なんで、自分の子どもの面倒しか見られません」
実際には、自分の子どもの面倒だってちゃんと見られなかった人間だ。そんな人間が他人様の子どもを指導するなんてあり得ないと思った。
そこから先はあまり記憶がないが、ミツキと電車で帰宅してそのまま寝てしまったらしい。次の朝目が覚めると前日の服がベッドの周りに脱ぎ捨てられていて、パジャマのスエットを前後逆に着ていた。
時計は9時半を指していた。
リビングによろよろと出て行くと、妻がミツキと一緒に朝マックをほおばっていた。
「ああ、おはよう。ミツキが食べたいって言うから来る時買ってきたの。どうせ食べないと思って私たちの分しかないけど」
「おお、もちろん・・・」
「コーヒーだけは、良かったらどうぞ」
私はプラスチックの飲み口を開けてコーヒーをすすった。もうかなり冷めていた。妻は私に視線を向けることなく続けた。
「とりあえず野球は一段落したみたいだし、今日ミツキの荷物は全部持っていくから。野球の道具はもう車に積んで、あとは子ども部屋のおもちゃとかゲームとかマンガとかかな」
「まあ、いいけど、野球は公式戦が終わったってだけで、練習は1月いっぱいまであるんだからそんなに急がなくても・・・」
「でもこれからは自主練でしょ。一応野球が終わるまでって約束だったし、キリがないから」
とりつくしまもなかった。
とうとうこの日が来てしまった。
ミツキの卒団は私にとって、13年間関わってきた少年野球との別れを意味するが、実際はもっと辛い別れをも意味していた。かつて家族と呼べた人たちとの別れである。
これまで触れなかったが、私はミツキが5年生の秋に離婚している。
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