見出し画像

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(20)

 とうとうミツキの引退試合の日が決まった。来週の土曜日だ。
 今日の雨で延期になった準決勝が午前中に行われ、もし勝てば午後から決勝戦となる。
 ローカル大会なので1位になっても上の大会につながって行くわけではないが、最後の大会を優勝でしめくくりたいとミツキも張り切っている。
 
 雨で暇になったので、ミツキの希望でバッティングセンターに行った。いつものところではなくちょっと離れたところに行ってみたが、施設が古いせいか雨なのに空いていた。

 ミツキはその日かなり調子が良く、ホームランの的まであと10センチ、あと5センチという打球を繰り返し打って見せ、隣のブースで遅い球に恐る恐るバットを当てていた低学年の男の子から「すごい!すごい!」と褒められた。
 
 ブースから出ると、その男の子の父親が「どこのチームですか?」と話しかけてきた。私がチーム名を教えて次の日曜日に体験会があることを教えるとスマホにメモを取っていた。そしてなかなかキャッチボールをやれる公園がないという話になったので、少し遠いが河原の無料デイキャンプ場についても教えてあげた。

 私がその父親と話している間、ミツキはまたブースに入って大きな当たりを放っていた。その父親の子はガラス越しに食い入るようにミツキのバッティングを見つめていた。

 この親子は今から始まるのだなと、13年前の自分とイチタを重ね合わせて胸が熱くなった。

 家に戻ってミツキとバットを磨きながら話をした。
 イチタの引退試合では時間制限ギリギリで三球三振のサインを出されたこと、ジロウの引退試合ではネクストバッターズサークルで試合終了になってしまったことなど、ミツキは真剣に耳を傾けていた。
 そういえば、これまで私はそれらの話をミツキにしていなかった。どちらも良い思い出ではなかったからきっと避けていたのだろう。このnoteにそうした苦い思い出も含めて書くことで、少しずつ向き合えるようになったのかもしれない。

 ミツキは私の話を聞いたあと、「オレは来週試合に出してもらえるかなぁ」とつぶやいた。「2試合あればどっちかには出してもらえるだろう。まずは準決で勝たないとな」と言うと「そうだね」と笑顔を見せた。

 さあ、このnoteを次に更新するのはミツキの引退試合の後だ。私はここに一体何を書くことになるのだろうか。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?