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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(10)

 イチタが少年野球最後の打席で見せた美しい三球三振は、結局報われなかった。試合は次の回まで行われたが、表でさらに3点追加され、うちのチームはそこから1点も返すことなく負けたのだ。
 モヤモヤとした黒い感情が私の中に残った。
 そのはけ口を探していた私に、帰宅後イチタがこう言った。

 「ねえオレ、すごいきれいな三振だったでしょ!?」

 私は爆発した。
 
「本気で言ってるのか!?あんなサインを出されて悔しくないのか!!!ああいう場面で打つために練習してきたんじゃないのか!!!お前は打てないと思われたんだそ!!!監督に信じてもらえなかったんだぞ!!!最後の打席があんな形で終わったのに何をヘラヘラしてるんだ!!!」

 あの時のイチタの、驚いたようなあきれたような、冷たく哀しい目を私は今でもまだ鮮明に思い出すことができる。

 イチタは中学でも野球部に入ったが夏休み前に辞めてしまった。

 「だって面白くないから」

 私にそう言ったイチタの目は、あのときと同じ目だった。


 

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