好奇心をアンテナに、寄り道をたのしむ。1冊の本を見つけるまでの話。
本屋にいる時間が好きだ。
家の近くの本屋は、夜22時まで営業している。
まっすぐ家に帰らずに、寄り道をする。
とくに目当ての本があるわけでもなく、
本棚を眺めて気になった本を手に取ってみる。
好きな作家さんの棚を見て、読んだことのない本を見つけたりする。
本屋で本を眺めている時間は、
さんぽで寄り道を楽しむ感覚に似ているなと思う。
自分で足を運んで、探して、手にとって、
いくつか欲しい本の中から吟味して選ぶ時間も楽しい。
買いたい本を決めて、本屋へ行くこともあるし
ネットで購入することもある。amazonでポチれば、数日で自宅に届く。
便利な時代になったよな〜と思う反面、小学生の頃、好きな漫画の発売日に合わせて、お小遣いを握りしめ、自分の読みたい本があるかどうか、どきどき・わくわくしながら探す時間を懐かしく思った。
欲しいと思う本を見つけるところから、探す過程を楽しみたい。
そんなことを考えていた頃、ほぼ日刊イトイ新聞の「今日のダーリン」で、糸井重里さんと南伸坊さんの「黄昏」という本について知り、興味を持った。
近くの本屋で探しても見つけられず、店員さんに問い合わせると在庫なし。
既に絶版のため取り寄せもできないことを知った。
メルカリで調べてみると2冊出品されていた。
ポチろうか迷った。
もしも、既に絶版の本を偶然見つけることができたら、面白そうだなと思った。「黄昏」を見つけるまで、自分の遊びを始めることにした。
最寄り周辺の本屋から、出かける先々で本屋を探し、古書店も巡った。
「黄昏」は見つからないけど、古本屋で気になって手に取った本の帯が糸井さんだった。
ちょっとずつ近づいてる気がする…!と自分を励ましながら探した。
なかなかすぐには見つからない。
見つかるまでの間、別の本でも読もうかなと思い、南伸坊さんの「私のイラストレーション史: 1960-1980」という自伝エッセイ本を買った。
南伸坊さんのことは、ほぼ日の「今日のダーリン」で名前が出てくるまで知らなかったが、南伸坊さんを知った上で「黄昏」を読むことができれば面白さも増すかなと思い、寄り道することにした。
この寄り道は、成功だった。
南伸坊さんの本を読み、南さん自身への関心がより高まった。そして、南さんが影響を受けたと紹介される人たちにもそれぞれ興味を持つようになった。(赤瀬川原平さんや和田誠さん、水木しげるさん、横尾忠則さん、安西水丸さん、佐々木マキさん等)
1冊の本から、いろんな人への寄り道がとても面白い。
(ちくま文庫の棚を見るのが好きになった。)
「黄昏」を探し始めてから約1ヶ月。
新宿の紀伊国屋書店で見つけることが出来た。
まさかの初版・単行本で…!
もし見つけたとしても古本屋か、文庫版でひっそりとあるかないかだと思っていたので、見つけたときはすごく嬉しかった。
実は、8月まで見つからなかったら福島の古書店まで行こうとしていた。
黄昏の文庫版が置いてあることがわかったのだ。
1冊の本を探すために、青春18きっぷを使って、福島まで行ったらそれはそれで面白いかなと思って切符も調べていた。
その翌日のことだった。
たまたま新宿の本屋で友人と待ち合わせになり、
合間に調べてみたら「◯」がついていて、二度見した。
いつもは検索機は使わずに本棚をゆっくり見て探していたが、この日は待ち合わせまで時間もなかったので、最初から検索機を使った。
文庫版は×で、やっぱりな〜と思って2-3ページめくると単行本に「◯」がついていた。
探している間、友人と『こういうのって期待してない時にふと見つかるよね』と話していたが、ほんとうにそうだ。まさか、ここで見つかると思わなかった。
この1ヶ月振り返ってみると、覚えているだけで22ヶ所の本屋さんを巡った。
白楽のTweed Booksという素敵な古書店を見つけた。はじめて訪れたときに黄昏の本を探している話をして、「いつかきっと見つかるといいですね」と応援してくれたので、見つけた後に報告しに行った。
「自分の手で買った本の思い出は意外と覚えているものですよね」と言ってくれた。黄昏を買うまでの過程も思い出話の一つになった。
ここでも、友人に勧められて探していた本を2冊見つけることができた。
1冊の本を探す過程で、知らなかった人たちのエピソードを知り、興味の幅が広がった。自分なりの本探しの楽しみ方を見つけることができた。
好奇心のアンテナを持つことができれば、
どんな日常も自分次第で面白くなる。
誰かにとっては意味のない検索機のレシートも、
私にとっては特別なレシートだ。
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