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モノシナプス結合を示す3つの実験的手法

記憶など、脳の情報の多くは、脳の配線に蓄えられていると考えられる。神経科学の研究をしていると、神経細胞が直接的に結合 (モノシナプス結合) しているかを明らかにしたい時がある。そのような場合にとられる3つの主要な方法を紹介する。


解剖学的結合を電子顕微鏡やエクスパンションマイクロスコピーを用いて可視化する。

1つ目の手法は、細胞同士を直接観察してみてつながっているかどうか調べるというもっとも単純な手法である。ただし、シナプス結合は数十ナノメートルというオーダーの世界なので、光学顕微鏡でつながっているように見えたシナプスが電子顕微鏡の高解像度で調べたらつながっていないこともあるというような論文もあり、注意が必要である。

最近の観察対象を拡大することで実質的な分解能を上げるExpansion microscopyの発展はすさまじく、モノシナプス結合を含めたナノメートルオーダーの解像度の構造を観察することが可能になっている。

Rabiesウイルスなどのモノシナプストレーサーを用いる。

2つ目の手法は、ウイルストレーサーの特性と遺伝学のトリックを用いてモノシナプティックに直接結合している神経細胞にのみ蛍光タンパク質を発現させる手法である。もともとRabiesウイルスはシナプス結合を介して逆行性に感染することが知られており、トレーサーとして用いられていた。その後、モノシナプスの結合関係を調べるためにシナプスを飛ぶときに使われるコーティングタンパクであるGタンパク質をGFPなどで置き換えたdGRabiesウイルスが作成された。ただし、このままではトレーシングできないので培養細胞にGタンパク質を発現させ、Gタンパクでウイルスをコーティングすることで補填する。これにより、感染細胞にのみGタンパク質をCre依存性などを用いて発現させることで、感染細胞からは飛ぶが、それ以降はGタンパク質がないので飛べないモノシナプストレーサーができる。また、培養細胞にEnvAというタンパク質も同時に発現させることで、EnvAでコートされたシュードタイプRabiesを作成することができる。これはTVA受容体を発現する細胞のみに取り込まれるので、遺伝的に限定された細胞にウイルスを発現させることができるほか、ヒトの一般的な細胞には発現しないので安全性が高いという利点がある。

https://www.jneurosci.org/content/35/24/8979

ただし、Rabiesの感染メカニズムは未だ完全に解明されているわけではなく、本当にRabiesウイルスがモノシナプスにしか飛んでいないのかについては議論があるようだ。

刺激後の応答時間を電気生理学的に記録する。

最後の方法は、ホールセルパッチクランプなどの手法を用いて活性化する神経と記録する神経の電気的活動を記録し、その神経細胞間での活動電位の伝達が十分に早ければ他の神経を迂回して活動電位が伝達されているとは考えづらく、神経細胞がモノシナプス結合しているだろうと推定する手法である。他の手法は解剖学的に結合していたとしても実際に機能しているかは分からないが、この手法は機能的な結合を明らかにできるという点で特異的である。

ただし、10 msec以下という早い時間分解能が必要で、イメージングでは厳しい。よってパッチクランプなどの手法を用いる必要があるが、実験がIn vivoでは難しいとともに、スケールもしにくいという難点がある。

参考文献

Structure and function of a neocortical synapse | Nature
Expansion-assisted selective plane illumination microscopy for nanoscale imaging of centimeter-scale tissues | bioRxiv
In vivo nanoscopic landscape of neurexin ligands underlying anterograde synapse specification - ScienceDirect
Monosynaptic Circuit Tracing with Glycoprotein-Deleted Rabies Viruses | Journal of Neuroscience (jneurosci.org)
Cortical representations of olfactory input by trans-synaptic tracing | Nature
#12 Retrospection on Retroinfection - NeuroRadio
Deep Cortical Layers Are Activated Directly by Thalamus | Science

脳の情報は配線に蓄えられ、モノシナプス結合を明らかにする方法は3つある。1つ目は解剖学的手法で、光学では見えるが実際にはつながっていないこともある。2つ目はウイルスを用いて蛍光タンパク質を発現させ、結合を調べる。最後は電気生理学的手法で、活動電位の伝達速度から結合を推定するが、時間分解能や実験の難しさがある。

ChatGPTを用いて要約
サムネイル画像はDALL-Eにより生成