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シン・エヴァンゲリオンを観て思い出したこと。

シン・エヴァンゲリオンを観て、ある友だちを思いだした。
仮にA君としておく。

A君とは、大学時代バイトをしていたファミリーレストランで知り合った。
90年代の半ばだから、もう25年くらい前になる。
そうだ、エヴァンゲリオンのテレビ版が始まったころのことだ。

A君も僕も、大学の4回生だった。
同じく厨房配属で、大学こそ違うが同回生ということもあって、暑い厨房の中、共に汗流しながら、安い時給に愚痴たらしながら、それでも楽しく働いていた。
バイト以外で会うことはなかったが、バイト中に軽口を叩き合うくらいには、打ち解けていた友人だった。

所詮、大学生のバイト。
大学の課題が忙しかったり、クラブの遠征が入ったりで、僕自身、何週間もバイトに行かない期間があり、だから、あまり気にもとめていなかったのだけど、A君はずーっとバイトを休んでいたようだ。
ある日、約一月ぶりにバイトに復帰したというA君と出会い、久しぶりー!っと声をかけたのだった。

「やっぱ、君も覚えてないんだ」

まず、返ってきた言葉はコレでした。
え?!
「一緒に戦ったこと…やっぱ、覚えてないんだ…」
はい?!

それから、ハンバーグを焼きながら、テンプラを揚げながら、A君は朗々と話し続けた。
A君の話はこうだ。

ある日、宇宙から飛来した、邪悪な存在との戦いが始まった。
強大な力を持つ邪悪の軍団。
なすすべもなく倒れていく人類。

しかし、A君を中心に、立ち上がった英雄たちがいた。
それがA君とともに働いていた、このファミリーレストランのバイトメンバーたちだったのだ。
そう、我らファミレス・バイターは、選ばれた人類であったのだ。

熾烈を極める邪悪な存在との戦い。
その中で、一人、また一人と倒れていくバイターたち。

最後に残ったのは、A君一人であった。
世界が暗黒に覆われようとした、その時、A君に異変が起こった。

覚醒である。

戦いで傷ついたA君の身体。
その内側から溢れ出るエナジー。
ぼろぼろの身体を突き破る目も眩まんばかりの光。

羽化する蝶のように。
孵化する小鳥のように。
人類を超越する存在へと、彼は進化した。

戦いは一瞬にしてクライマックスを迎える。
A君は、身につけた膨大なエナジーを放出させ、邪悪な存在を葬り去った。

後に残されたのは、傷ついた大地と、A君ただ一人だった。

そして、A君は戦いの中で身につけたエナジーを使って、もう一度、我々の住むこの世界を作り上げたのだった。


「…というわけで、この世界は、僕が作ったんだ。」

じょわー。
じょわー。
はっと気がつくと、ハンバーグが焦げている。
A君の話に気を取られていたのだ。

「あの戦い、やっぱ覚えてない?
ま、僕も、あんまり過酷な戦いだったこともあって
記憶を封印しててさぁ。
思いだしたのは、こないだなんだけどね。」

エビとホタテのドリアをオーブンに入れながら、A君は言う。

「君も、すんごく、がんばってたんだけどなぁ。」

チキンの竜田揚げを作りながら、はぁ、と答えた。

宇宙規模の邪悪な存在。
立ち向かうファミレスの店員(時給650円当時)。
両者のコントラストが鮮やかすぎて、くらくらしながら料理したことを覚えている。

そして、その後、A君はバイトを去る。

A君がバイトに現れなくなってから、下宿先と連絡がとれなくなったA君の親から、何度か店に連絡があったそうだ。

「就職氷河期」という言葉が、流行語大賞を取ったのが1994年だ。
僕ら、就職氷河期世代のメインストリームになっちゃったのだ。
全く望んでもいないのにね。
A君、就職活動がうまくいかなかったのかなぁ。
今は、どうしてるかなぁ。
元気でいることを祈ってる。
ともに戦った者の一人として。

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