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友人のようだった祖母

先日、祖母が亡くなりました。

コロナだからとここ数年帰省していなかったなか、
どちらかといえば祖父の体調の方が懸念されていたのに、
祖父との生活を切り盛りしていた祖母の方が先に、隠れた病気で亡くなる結果となり、私は急遽地元へと帰りました。

最も仲がいい親族だったのに、
突然倒れて会わないままお別れとなってしまいました。

今日は祖母について、尊敬していることを書いてみます。


祖父から聞いた話ですが、祖父は20代のころそろそろ自分で独立しようと大手電力会社を辞め、
喫茶店でもやるかと祖母を連れてお店を巡ろうとしていました。
最初に電力会社に就職した理由は「エネルギーの会社なら今後も生活に必要だから無くなることはないだろう」という先を見てのことだったそうです。

ところが電力会社の同期2名も辞めてきて
「せっかくここまでやってきたんだ、先があるエネルギーで起業しようぜ」と言ったとか。
こうして祖父は元の業種でもある電気のまま、小さな会社を2人の仲間と共に作ったそうです。

祖母は2人の娘=私にとっての母と叔母と育てながら、
創業期の苦しい時期含め祖父を支えてきたことになります。
今現在の家は、祖父と、祖父の母(姑)との3人暮らしをしていた場所。
やがて姑は亡くなり夫婦2人になるわけですが、「相手の家に入る」の意味も、女性には今以上に生活の変化が大きかったのではないでしょうか。

私の子供時代の祖父は、相棒2人を先に亡くしながらも会社に顔を出し、
新しいことに興味を持ち、書斎にたくさんの本を抱えるカッコイイ人でした。
会長職のため、安定とされていた公務員の両親よりも大きな車、テレビを定期的に買い替えていたのが子供ながらに印象的で、
下の世代に支えてもらうどころか「なにかあれば言ってこい」という風格でした。

そんな自信に溢れた人が、
免許を返納して好きなパチンコに行けなくなったとき、
「あれが最後の旅行だったか」と気づいたとき、
夫婦2人だけで買い物に行けなくなったとき、
酸素吸入の機械が外せなくなったとき、
どんな気持ちになるものなのでしょうか。


私の記憶の中の祖母は、いつも祖父を尊敬していました。
「うちのお父さんが、一番賢い!」
といくつになっても絶対的に思っていました。

おしゃべり好きの祖母は祖父にいろんな話をたくさんし、ときには喧嘩をし、晩年はお互い耳が遠くなってそれでイライラもし合ったりしていたのですが、
必ず夜にはコタツで祖父の隣に陣取って、ニコニコしていました。

祖母がそばにいたからこそ、何でもできて自負のあった祖父は、
少しずつ体力を失っていくのを自覚しながらも、励まされていたのではないかなと思うのです。

祖母がいなくなって、祖父はそれを理解したように見えて、
朝には「婆さんは起きとるかいの」と探して、
「亡くなったでしょ」と言われ「そうか、ワシは一人かぁ」とようやく思い出します。

祖母の火葬で遺された骨を見たとき、「やれやれ骨になってしもうたか…」と言った祖父。
それが生まれて初めて見た祖父の涙でした。

たくさん思い出がある人と、
もう二度と一緒にお茶が飲めなくなったとき、
ご飯が食べられないと知ったとき、
電話したって出ないとわかってしまったとき、
どんな気持ちになるものかを、私も知りました。


祖父は、しばらくは「婆さんは起きとるかいの」を繰り返すと思います。
それを言わなくなったときが、本当の寂しさになってしまうのかもしれないので、毎日忘れていてほしいような気もしてしまいます。

祖母はたくさん食べ物を買うのがくせでした。
定期的に届くジュースやゼリーもいくつもありました。
大雨がしばしばある地域で、家にこもったときも祖父と食べられるようにと、小分けのおやつをたくさんたくさん持っていました。

祖父との生活を守るために、
リスみたいにせっせと食料を貯め込んでいた祖母。

今年の夏も、
暑くなってきたからお爺さんが体調崩さないように涼しくしないと。
娘たちに電話でいろいろ言ってやらないと。
そんなふうにいつもどおり思っていたのかもしれません。

私の母といつものように元気に電話した翌朝、
祖父のために朝食の卵焼きを作ろうとした台所で、
祖母は倒れていたそうでした。


もっと一緒にいればよかった、とか一緒にお酒を飲んでおけばよかった、とか今は色々思ってしまいますが、
いつも笑顔でいてくれていたこと、
遊びに行ったら元気よく出迎えてくれたこと、
母に内緒でこっそりおやつをくれたこと、
祖父を尊敬し、支え続けてくれたこと、
すべてありがたかったなと思います。

明るくて、よく笑って、元気で、友達みたいな祖母でした。


孫として、自分の人生を誇れるように生きていきます。

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