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【品田遊】全作品レビュー

noteでも大人気のクリエイター品田遊さん。
私は、旧Twitter(あえてXとは書かないです)のダ・ヴィンチ・恐山時代からのファンです。
現在はバーグハンバーグバーグに入社し、ウェブサイト「オモコロ」でも活躍中です。

旧Twitterでも発信を続けていますが(最近はダ・ダ・恐山名義での発信が多いようです)出てきた頃の印象は衝撃でした。
いわゆるネタツイートで名を馳せたのですが、その切り口、視点、ウィットに富んだツイートは正直格が違いました。

その後、品田遊名義で作家としても活動するのですが、この形でのデビューの仕方が新しいなと思いました。
燃え殻さんも同様ですが、まずSNSで有名になりファンをつけて本を出版する。
今では一つの方法論ですが、当時は新しい形でした。

考えてみれば、昔は(そして今も?)小説を出版したいと思ったら、有名な文学賞や新人賞に応募をするのが一般的ですが、これは間口が狭いですよ。
圧倒的な才能があればとか思いますけど、才能があってもタイミングや、審査員の好みもあるのでしょう。
かたや自費出版やKindle出版という方法も現在ではとれますが、売上という面において無名というのは不利にしか働かないですよね。それこそ才能があっても無名というのが邪魔をするのです。

その点、この方法は理に適ってるなと思いました。
とはいえSNSで有名になるのは簡単なことじゃないです。
Twitterでいえば140字の文字情報だけで面白いと思わせたり、ファンをつけるなんてそれこそ才能なのでしょう。

今回はそんな品田遊さん(名義)の全作品レビューをしたいと思います。



止まりだしたら走らない(2015年)



中央線を舞台とする連作短編(ショートショート)集。
品田遊名義のデビュー作です。

読みやすい文章、そこに日常を題材にしているので全体としてポップな印象を受けます。
しかし、その日常の切り出しかたにセンスが光ります。観察力、批判力、これらはTwitter時代から感じていました。

私は作者の哲学的素養がそうさせているのだろうと推測しています。
物事を懐疑的なフィルターで一度通してみる、視点を変えて様々な角度から見てみる。
これらの作用をポップな(日常的な)テーマで扱うときに、彼の魅力は発揮される気がします。

物語としてもラストにどんでん返しが待っており、色んな魅力に溢れている一冊です。



名称未設定ファイル(2017年)



全17篇によるショートショート集。
前作同様、読みやすさの中にも切り口や発想力が光る。

本作は、近未来やAI、電脳世界などSFを用いたテーマも扱っている。
テーマのせいか、前作よりも皮肉さやブラックジョークで物語を料理しているように映ります。

作者は大喜利も得意としていて(それも面白い!)「笑い」に対するアプローチも確立している。
時折みせるシニカルな部分、本作ではその辺りが目立っているが、彼の魅力を語る上で見逃せない部分である。


ただしい人類滅亡計画反出生主義をめぐる物語(2021年)



本作をどう評価しようか。今回私にとって一番の難所、そんな本です。

物語は「人類を滅亡させるか否か」について10人の様々な主義を持つ人間が、議論を展開する流れです。
『反出生主義』をテーマに一冊まるまる議論が続きます。

作者の哲学的造詣が深く反映されている本であり、議論という形をとった方法も見事だ。
故に明確な「答え」というものは提示されず、これを読んだ読者それぞれがこのテーマについて考えてくださいというスタンスをとっている。
その意味では私にとって価値ある一冊であった。

あとがきにある「異なる種類の正しさがそれぞれどんな水準で成立しているのか」を考えるという一文に、本書の魅力は集約される。



キリンに雷が落ちてどうする少し考える日々(2022年)



本noteでもお馴染み「居酒屋のウーロン茶マガジン」より、そこから厳選した記事を全文加筆修正、再構成した一冊です。

現時点での最新作であり、私が一番好きな作品です。
まさに脳内を覗き見る、そんな感覚に襲われながらも色々な感情をくすぐられます。

本書においては、私の小賢しい解説などは放棄します。とりあえず読んで欲しい。自信をもっておすすめできる、そんな一冊です。


おわりに


いかがでしたか。
私が単純にファンであることもあり、手放しでレビューしてしまった感はあります。

しかし、ビジネスにおいても「成功する」というのは、応援してくれる人(ファン)を増やすことではないでしょうか。
なにもビジネスだけではありません。実生活の中でも「自分を応援してくれる人」が増えれば、それに越したことはありませんよね。

ファンを作ることは簡単ではありません。
それこそ容姿端麗な芸能人やアイドルですら、躍起になって取り組んでいるくらいです。
正しいことを主張してればファンは増える、そんな単純なものでもなく、人間性や生き方など様々な要素が入り組んでいるのでしょう。

残念ながら私はファンが出来る側の人間ではありません。
それでも誰かを応援する喜びは感じられます。
私にとって品田遊さんは、そんな作家の一人です。


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