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若者の旅立ちと家族の存在 (33-50)

私の年齢になれば(仕方がないことですけれど)実家や親戚からの知らせが訃報であることが多いです。今朝も従兄の訃報が入ってきました。

私の年齢から彼も高齢に間違いないけれど、実母の年齢を考えるとまだ生きられる年齢だった従兄。5人兄姉のある末の弟として生まれ、看護師の妻の夫として、2人の子の父として、自身の電気工の仕事と婿入り先の果樹農業の2つをこなし生きてきた彼は、心身ともに負担が大きかっただろうなと今は想像します。

夫の運転で婿入り先の自宅へ最後のお別れに行きました。

covid-19の蔓延する今、家族葬と掲げられた喪中の玄関先で、彼の奥さんや県外に住む娘や息子と会い、寂しいお別れだとの言葉に今更ながら辛い時世だと感じています。

昨夜読み終えたのが若くして自らの手で亡くなった才能ある脚本家でもあった野沢尚の作品だったことが、なんとなく従兄の死を予感していたような気もして不思議な感覚があります。(従兄は長い闘病の末の死でした)

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坂下薫平19歳。大学の廃寮問題に揺れる一方で、仲間たちのストーカー事件、恋愛騒動等が巻き起こり…。団塊の世代との対立と交流を通し、失われた父親的存在を探す、団塊ジュニアを描く青春長編小説。吉川英治文学新人賞受賞第一作。(「BOOK」データベースより)

以前紹介した本(夜更かしの本棚)で朝井リョウ氏が、この作品を紹介していて、そういえばドラマ等で野沢尚という名前を知っていたけれど、小説として読んだことなかったと気がつき図書館から借りたのがこの作品でした。

物語の舞台は東京大学を思わせる首都大学の昭和10年に建設された文化財に匹敵する65年という歴史を持つ弦巻寮。「廃寮キャンペーン」によって取り壊そうとする学校側と、変人扱いされることも多いけれど、3食付きで寮費も安く立地も良いので存続を訴えている寮生とで対立している状況下、大学側が選んだ舎監、寮の管理人として名倉憲太朗がやってきます。

寮の最年長者28歳文学部大学院生で委員長の司馬英雄、自治委員会副委員長本多真純、会計係保利愛弘、サッカー部のエースストライカー茂庭、女子寮生田北奈生子、彼女のファンである、父親が全共闘の闘士だった理学部3年江藤麦太と応援団員の教育学部1年葛山天、工学部1年安達、「ナンパーマン」こと医学部3年手島脩一ら弦巻寮の個性的な寮生たち、そんな寮生の腹を満たす食堂担当主任いわゆる賄い婦の日高菊、「埃をかぶって眠っていた65年前の寮則を持ち出してきて、寮生たちが音をあげるまでガチガチに締めつける男」として登場した名倉憲太朗。

名倉が管理人としてやってきてまもなく、次々と優秀な寮生たちがどうしていいかわからない出来事にぶち当たるのですが、名倉がことあるごとにアドバイスしたり、少し手を貸してあげたりするのです。

それらの顛末が、主人公である医学部1年坂下薫平の目を通して語られるのですが、登場人物の人間造形がとてもうまいのはもちろんのこと、主人公をはじめ登場する人物によって描かれるドラマも読んでいてその情景が目の前に映し出されるかの如く秀逸です。

名倉と弦巻寮生は、半分疑い、反発しながらも次第に微妙な交流が始まっていくのですが、時は進み、寮の取り壊し、わずかな寮生たちの最後の抵抗、想像もしなかった名倉の真の姿を映し出して終わりを迎えます。

「僕のしたことは間違っていない。あとはこの自由さに立ち向かえる頑丈な心があればいい」

頑丈な心が育つために身近な大人(家、家族、親に限らない)が必要であること、存在の重要性を著者はこの物語で必死に訴えていたと思いました。

映像化もされています。いい作品は20年という年月を感じさせませんね。

週末の土曜日、少し早いですが今日もお疲れさまでした。読んでいただき、ありがとうございます。明日もこの場所でお会いしましょう。

バックミュージックはこちらです。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。これからも励みますね。