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三度目の恋 (38-50)

ここ数年定着した感がある今日は「いい夫婦の日」ですね。といって私たち夫婦は特に予定なく、ぼんやりと過ごしていますが。
読書の方では、いい夫婦の日を待っていたかように川上弘美氏の作品を読み終えました。

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すべての女を虜にする魅力的な男、ナーちゃんと結婚したわたし。女性の影が消えない夫との暮らしの一方、わたしは夢のなかで別の女として生きることになる。あるときは江戸吉原の遊女、さらには遙か昔、平安の代の女房として、さまざまな愛を知り……。夢とうつつ、むかしと今のあわいをたゆたい、恋愛の深淵をのぞく傑作長編。(Amazon内容紹介)

伊勢物語をベースにした物語を作る、というテーマを与えられ書かれたこの作品は、現代の自分が過去の世の中で、今の自分の意識を持ちながら夢の中で今と昔三度恋愛をするというものです。

主人公莉子は幼い頃に出会った、原田生矢に一途な恋心を持ち、結婚。女性に魅力的な生矢はまさに伊勢物語の業平のような男性ですが、彼を丸ごと受け入れていた莉子は結婚生活を営みつつ、夢の中で過去の世界、初めは吉原での花魁として、次は平安時代の女房として、その世界の多彩な恋愛模様と共に、彼女自身も別人格として他の愛の世界をさまよい、まさに三度の恋に酔います。

そんな三度の恋を経験しつつ、莉子は現実社会で生矢との子ども棟児を産み、息子の成長により自分の伴侶となった生矢との恋の意味を知り、さらには小学生の頃学校に馴染めぬ莉子を見守ってきれた用務員の高丘との精神的な安らぎを得る大人の恋を自覚するというところは、同じ女性としてとても魅力的でした。

「自由、というのもけっこうやっかいなものだけれどね」
「執着は、人間を強くする。そして同時に、執着は人間をとてつもなく弱くする」

昔から男性の方が多くの恋を経験するように言われているけれど、実は女性の恋の方が濃密で美しい恋をするのだと私は思います。

この作品の評価は分かれているようですが、実際に読んで見て、愛するということへの姿勢が男性と女性では昔から違っていること、そして昔は確かに男性優位の社会であったけれど、恋愛に関しては実は平等であったことなど著者がこの作品を書く上でかなり研究し、加えて、あとがきで著者が述べていますが、作品中にも登場する三谷一馬著「江戸吉原図聚」や澁澤龍彦の「高丘親王航海記」の主人公高丘親王にもかなり思いがあることなどから、著者がかなり深く構想を練って書いていることがわかり、私はこの作品を支持したいと思いました。

その愛は、狭いものではなく、かと言って広すぎるのでもなく、ぽうっとともったともった春の灯のようであってくれればいい。その灯がわたしを照らさなくとも、わたしが愛した何かを照らしてくれさえすればいい。そうしたら、わたしは愛するものを優しく見つめることでしょう。ただただ、柔らかく見つめていることでしょう。この余生が終わるまで、ずっと。


著者は結婚・出産を経てさらに作品の幅が広がり、優しさと慈愛が満ちていています。そんな著者の書く作品を好きです。今後の作品も楽しみです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。3連休の方も多いのかな。どうか有意義にお過ごしください。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。これからも励みますね。