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スウェーデン発大型歴史ミステリー

スウェーデンで2017年9月に刊行されたニクラス・ナット・オ・ダーグの作家デビュー作品を読みました。

1793年、秋。湖で発見された男の死体は四肢と両眼、舌と歯を奪われ、美しい金髪だけが残っていた。フランス革命から4年。前年に国王グスタフ3世が暗殺されたここスウェーデンにも、その風は吹きつつあった。無意味な戦争、貧困や病にあえぐ民衆の不満と怒りはマグマのように煮えたぎり、王室と警察は反逆や暴動を恐れ疑心暗鬼となっていた。そんな中で見つかった無残な死体。警視庁から依頼を受けた法律家ヴィンゲは、風紀取締官カルデルと共に捜査に乗り出す。重い結核に冒されたヴィンゲの捜査は、時間との闘いでもあった―。野心的北欧ミステリー。革命の風吹く都を描く超弩級の歴史小説! (「BOOK」データベースより)

舞台は1793年フランスでは革命の混乱が続き、その年王妃マリー・アントワネットが処刑され、スウェーデンにもその空気は広がっており、前年1792年には国王グスタフ3世が仮面舞踏会の最中に暗殺され、戦争と貧困にあえぐ庶民の不満と、王制への不信が蔓延していた時代のストックホルム。

秋のある日、腐食はないけれど、四肢は切り落とされ、眼球をくりぬれ、舌と歯もない、美しい金髪だけが残された男性の遺体が、湖で発見されたことから事件が始まります。

警視総監ヨハン・グスタフ・ノルリーン(実在する人物だそうです)から依頼され、結核に冒されて余命幾ばくもないインテリ法律家セシール・ヴィンゲは、遺体の発見者での一人、退役軍人で義腕で荒くれ者の風紀取締官(通称引っ立て屋)ジャン・ミカエル・カルデルとともに殺人事件の捜査を始めます。

著者あとがきによれば、1973年1月にノルリーンは警視総監に就任するも、その年の冬には模倣犯うるホルムが後任となるという事実に触発され、この小説の背景としたそうです。

さらにその年はスウェーデンの歴史的にも大きな史実が揃っているそうで、物語はもちろんミステリーでありフィクションですが、歴史小説として読んでも十分すぎるほど、よく調べ書かれているのに驚きます。

スウェーデン発の小説は私自身初めてですが、いつもながら登場人物に苦戦(なかなか名前と相関図が頭に入らないので)したうえに、惨い遺体、目を覆いたくなる遺体に到るまでの描写、汚穢と残酷に満ちた時代背景もあって重苦しい描写が続き、読むのがつらくなることも多かったです。

しかし最後には事件解決だけでなく、殺伐とした世の中で見せる人の心情と誇りを捨てない人たちの行動が胸を打ちました。

この作品も三部作となるそうで、本国では2019年9月に第二作「1794」が刊行とか。

スウェーデン最古の貴族の末裔である著者の次回作が翻訳されるのが待ち遠しいです。


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