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陶芸作家・腰越祐貴 リアル過ぎない生き物ワールドの魅力。

今、わたしが見ているのは、カエル、トカゲ、サワガニ、カメレオン。どれも手の平に乗るほどのコンパクトサイズだけれど、お世辞にもカワイイとは言えない生き物たち。
それでも、なんともいえないその滑稽な表情を見ていると、肩の力が抜けて、癒されていく感じがします。
この今にも動き出しそうな生き物たちは、息をしていません。陶芸作品なので当たり前なのですが、じっとしているからいくらでも眺めていることができます。
多くが器にへばりつくようにくっついて、その姿がまたなんともコミカルで、愛嬌いっぱい。一度見たら、また見たくなる、手に取って触れたくなる、そんな人を引き寄せるちょっと個性的な作品です。

この作品の作者は、陶芸を始めて7年という若手の作家、腰越祐貴(コシゴエ ユウキ)さん。
数々のコンテストに出展、受賞の経歴を持ち、現在も個展やグループ展などの企画展で作品発表を精力的に行っています。
腰越さんの作品には生き物をテーマにした個性的なものが多いのが特徴です。どの生き物たちも、触れた瞬間に「やぁ、こんちわ!」なんて挨拶してくれそうな愛嬌たっぷりの創造物。リアルだけどリアル過ぎず、イマジネーションをかきたてる独特な存在感に惹きつけられてしまう。
それにしても、どうしてカエル?トカゲ?生き物?
この個性的な生き物ワールドをもっと知りたくなって、まだまだ未知数の可能性を秘めたアーチストである腰越さんに、作品のことじっくりと伺ってみました。


-Interview-

「生き物は“目”に惹かれる。説得力がある目。リアルであることを追求しているけれど、完全なリアルを目指しているわけじゃない。」

陶芸を始めた最初の頃は、切り株をモチーフにした作品を作っていました。
生き物は、この切り株作品から派生したものなんです。
切り株の完成度を上げたいと思い、それにはもっとリアル感を追求したくなって生き物を作り始めました。生き物を作ることで、技術力や表現力を身に着けていこうと考えたんです。

作品を作るとき、自然の中にいる生き物であることを意識して、表現するようにしています。例えば、カエルなどは、キャラクター的な可愛いい感じにならないように、少し痩せ気味で野生的な雰囲気を出すようにしたり。
一番、こだわっているのは、“目“ですね。生きている目を表現したいという思いがあるので、目を作るときはかなり気を使っています。
生きてる“目”は、どんな感じなのか?と聞かれると、こんなふうにって分かりやすい説明ができないのですが、「説得力がある目」かな。
生きていることを主張しているというか、エネルギーが満ちているというか…。そういう力強い生を感じるに目には、説得力があるんです。常にそのことを考えながら、生き物は制作しています。

質問⑬の画像1 (2)


生き物は、リアルは目指してはいますが、完全なリアルは目指してはいません。
今の僕には、本物と見間違うような超絶技巧の技術はなく、そこまでのレベルに到達するのはかなりハードルが高い。それに、そこまでリアルにこだわりたいかというと、そうでもないんです。
僕が作る生き物たちは、あくまでも陶芸の作品です。だから、とことんリアルを追求しても限界があると思うし、リアルという面ばかりを追い求めるのではなく、陶芸らしさのようなものが現れていたほうが自分らしいと思ってます。

作品の中で、僕が今一番気にいっているのは、ヒョウモントカゲモドキのぐい吞です。さっき話したとおり、目が気に入ってます。

質問⑬の画像2


 一番、作っていて難しいと思ったのは、オオムラサキのぐい吞です。翅(はね)の模様を表現するのに苦労しました。

質問⑮の画像

僕の好きな生き物はヤドクガエルです。体の模様が様々でカラフル。そこが面白くて、図鑑を参考にして、いろいろな模様のヤドクガエルを作っています。模様の違う、ヤドクガエルシリーズができると面白いかも!

キオビヤドクガエル


自然の物+古びた人工物の様な物”をイメージしながら作る。幻想的でありどこかもの悲しい、そこに惹かれるから」

専門学校に通っていた時、卒業制作で切り株をモチーフにした器を作りました。今、作品にしている生き物たちの原点と言えます。
切り株を作品にするという発想は、僕の実体験から生まれました。自然をイメージした作品を作りたいと思い、テーマを探しに林の中を散策していたら、朽ちた切り株を見つけたんです。よく見てみると、中に虫や小さな生き物たちが住み着いていて、朽ちていても他の生き物たちの住処になったり、コケが生えたりして、切り株は生き物たちと共存しているんです。
その生命力の強さに感動しました。
それと同時に、朽ちていくことへのもの悲しさのようなものも心に残って、作品で表現したいと思ったんです。

質問⑤の画像2

質問⑤の画像1


僕が今まで作ってきた作品は、「自然の物」と「古びた人工物の様な物」を組み合わせたものが多いです。
「古びた人工物」というのは、人の痕跡であり、取り残された過去の遺物のことです。時間が経って劣化し、廃物となったモノ(※写真の缶や斧のような)は、“遺された時間“を表現しているんです。
「自然の物」とは、現在そこにいるもの、動いている者、生そのものです。それらは、“動いている時間“を表現しています。
「自然の物」と「古びた人工物の様な物」。
僕がこの2つを組み合わせて作品を作るのは、朽ちていくものと生あるものの対比を表現したいからです。
生き物に朽ちた遺物を加えたほうが、生きているものの生命力の強さが強調され輝きが増します。両極的の存在があわさっているのも面白いと思っています。

カエルと鉄板の皿 (1)


思い描くのは、軍艦島(長崎県長崎市にあるかつて海中炭鉱で栄えた無人島)のようなイメージですね。廃墟に遺された遺物が、かつてその場所に人がいた痕跡を想像させます。時間が経過して、植物やコケ、小動物など自然が加わっていくと、どこか幻想的でもあり、もの悲しさを感じます。自分の中にあるそんなイメージが、作品作りの軸になっていると思います。

僕は作品を作る時、どんどん想像を膨らませて、作品を表現するためのストーリーを作りながら制作を進めています。時間の経過を軸にしたストーリーは作品に影響することも多くあります。
例えば、森の中に昔使われていたバケツが捨てられていて、季節が変わる度にどんどん朽ちていき、そこに雨が降って、コケがはえて、小さな虫が卵を産んで、生き物が増えていく…。そんなふうに自分の頭の中にストーリーができて、その一場面が作品になっていることも。
空き缶にカニが入っている作品があります(下の写真)が、缶の中に雨水が溜まっている様子を思い浮かべながら作りました。そういう細かなところもストーリーから生まれた表現の一つなんです。

カエルと鉄板の皿 (2)


斧も切り株もすべて陶器です。



「手の感触で表現することができる陶芸は、自分にあっている。陶芸は僕にとって、ドキドキできる唯一のものだから、これから先もずっと続けていきたい。」

今、作品にしたい生き物はヘビ、ヤドカリ、スズメ、カマキリ。
理由は、どれも身近にいる生き物で、イメージしやすいからです。
誰もが知っていてイメージしやすい生き物ばかりなので、完成度が高くないと評価されないはずだし、自分も納得できない。知られている分、より高い技術が求められると思うので、それに挑戦してみたいという気持ちがあります。

生き物を作る時は、主にネットの色々な画像を見て、自分なりにああしよう、こんな格好にしようと想像を膨らませて作ることがほとんどです。
ネットの他には図鑑を参考にしています。
作品を作る時に一番悩むのは、デザインや構成を決める時。どうしたら生き物のリアルな表現が出せるか、作品を見てくれる人が関心を持ってくれるか、器との絶妙なバランスのよさを出すのにもすごく悩みます。

質問⑫の画像 (2)

作品作りに刺激を受けた作家さんは二人いて、一人は金魚絵師として有名な美術作家の深堀隆介さん。深堀さんの非日常を感じる世界観に惹かれます。「番傘の中にいる金魚」はとくに好きな感じです。
もう一人は、カエルをモチーフにした作品が多い、陶芸作家の有川京子さん。蓮の葉っぱのお皿が綺麗で力強く迫力があり、印象に残りました。

これから、取り組みたいと思っている新しいテーマは、まだはっきり決まっていません。直近では、生き物が付いていなくて、生き物の模様などを描いた作品も作ってみたいと思ってます。
作品はオブジェとして購入していただく方も多くいるようですが、僕としては、普段使っても、飾って鑑賞してもらってもどちらでもよくて、どちらでもうれしいです。使い方は、作品を購入された方に託したいと思っています。

僕は陶芸の他に趣味もないし、用事がなければ1日中作品作りに没頭していて、それがまったく苦ではありません。
陶芸は自分の手だけで表現できるところが、面白い。自分にあっていると思います。でも技術的にはまだまだで、もっと腕をあげていくことを目指したいし、僕はいつでも挑戦者でありたいと思っています。

僕にとって陶芸とは?
ひとことで言うのは難しい。自分の手で思うように形は作れるけれど、いつもドキドキしながら焼きあがるのを待ちます。思いどおりになるようでならない。ドキドキしたりワクワクしたり、日常にない刺激のようなものを楽しめて、もっとレベルを上げたいと思える唯一無二の存在です。だから、これから先もずっと、陶芸に関わっていきたいと思っています。

ヤドクガエル集合

-Infomation-

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腰越さん裏

Writing:Rie Maeda

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