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観光DXにはA・B・Cの変革が必要

これまで「観光DX」のX=Transformationが「かたちが変わる」の意を持つことから、DXとは「デジタル技術により創出された状態が、以前とはかたちが変わっていること」そして「その状態になる前には戻れない状況」と定義づけてきました。
単なるデジタル技術による改善や、アナログの手段をデジタルに置き換えるだけではなく、関係者が「変革」の強い意志を持って観光DXに臨むことが、成功の第一歩です。

観光DXによって「具体的に何を変革するのか」の例については前回の記事で触れましたが、今回は少し角度を変えて、観光DXの成功には「デジタル技術の導入の前提として何を変革する必要があるのか」について考えてみます。
 
近著である「改革・改善のための戦略デザイン~観光業DX」(廣川州伸著・秀和システム発行 2022.12)で提示されていた「A・B・Cの変革」をとりあげます。

AX: Alliance Transformation = 地域での提携・協業による変革
BX: Brand Transformation = ブランド経験価値の醸成による変革
CX: Customer Transformation = 顧客体験価値の創造による変革

(「改革・改善のための戦略デザイン~観光業DX」p.4)

本作を拝読して、観光DXを成功させるには、A・B・Cを変える必要があるのだと認識しました。
今回は、これらの定義付けについて、以下の通り、少しアレンジして議論を展開させていきたいと考えます。

  • AX: Alliance(=協業相手)が変わることによる変革

  • BX: Brand(=地域ブランド)の切り口を変えることによる変革

  • CX: Customer(=観光客)の体験を変えることによる変革


AX: Alliance(=協業相手)が変わることによる変革

新たなデジタル技術の導入には、その技術を持つ相手先との協業が必須となります。そして、これまでに協業したことのなかったシステム会社などの民間企業との提携においては、事業の主体となる自治体やDMO(Destination Management Organization=観光地域づくり法人)、地元事業者のリーダーシップが強く求められます。
 
一般に、システム導入に関してシステム会社は、いわゆる「導入の型(かた)」を持っていて、その「型」に導入先側の状況を合わせていく作業を進めます。他社での成功事例や最もシステム面での効率が良い方法を取り入れるためです。これに対して、観光DXの場合であれば、地域の事情がひとつひとつ異なることを理由として、できるだけその地域側の状況にシステム側をカスタマイズしていこうと考えるのが普通です。ただ、これにはコストと期日がかかってきます。
 
システム側の事情と観光地側の事情、どちらにどのぐらい合わせればいいのかという正解はありません。ただ、DXが「デジタル化による変革」である以上、観光地側の既存の自治体・DMO・地元事業者との協業とは異なり、今まで明文化する必要のなかった物事をプロジェクトの書類に落としこんでいったり、場合によっては業務の流れを変えたりすることは当然です。一方、システム会社側も今まで現地側で行ってきた業務の状況をよく知り、尊重し、十分な議論を進めていくことが求められます。
 
観光DXにおいては、AX、協業相手が変わることで、プロジェクトのリーダーが率先して、自らの業務の進め方も見直していく必要があるのです。


BX: Brand(=地域ブランド)の切り口を変えることによる変革

DXは「変革」だからといって、地域が持っている魅力、Brand自体を変える必要はありません。ただしこれは次のC、Customerの体験を変えることにつながっていくのですが、DXによりBrandのどの部分を強化していくのか、すなわちBrandの「切り口」を変えていくことが求められます。
 
Brandの「切り口」を変える、とは、例えばデジタル技術を用いてメタバース空間で地域を紹介することを考えるとわかりやすいかもしれません。「切り口」とは、地域の「なにをみせていくのか」。普段の観光では立ち入れない特別な空間の映像なのか、独自の伝統技術の職人の手元をクローズアップするのか、といった映像の「カット」が、Brandの「切り口」となります。

「地域のありのままを好きに見てもらう」というのは正論ですが、地域Brandの魅力発信にむけては、もう一歩踏みこんで、「何を見せたいか」「デジタル技術を用いて、どのように見せたいか」、逆に観光客側の視点にたって「何が見たいのだろうか」などと検討を続け、その結果、Brandの「切り口」を今までと変えたり、新たに見つけたりすることが、効果的な場合も多いでしょう。


CX: Customer(=観光客)の体験を変えることによる変革

最後のC、「Customer(=観光客)の体験を変える」ことは、そもそも観光DXに取り組むきっかけでもあり、DXにより実現されるゴールでもあります。観光客が、旅行前・旅行中に不便に感じていることを解消するためなのか、旅行前・旅行後にその地域を思い浮かべてもらいたいために行うのか、どのようなターゲットの観光客にどのような体験をしてほしいのか、できる限り明確にしていくことがDXの第一歩です。
 
「コスパ」「タイパ」とはあまり言い言葉ではないかもしれません。「普段の生活から離れた旅行中ぐらいは、多少の不便はかけるかもしれないが、のんびりしてほしい」というのはそうなのですが、「コスパ・タイパのいい旅行をしたい」と考えている観光客は多いですし、そもそもデジタル技術は時短や効率化との相性はいいものです。

例えば、添乗員のいるバスツアーでは、効率よく観光地を巡り、丁寧にその地域について紹介してくれます。それを個人旅行でも、旅行前から手元のスマホのアプリを使うことで、観光ルートを計画したり、旅行中に観光先の情報を一覧できたりすることができれば、Customerの体験は確実に変わります。


今回は、観光DXにおけるデジタル技術の導入の前提として、Alliance(=協業相手)、Brand(=地域ブランド)の切り口、Customer(=観光客)の体験を変えていく必要があることに触れました。次回は具体的な観光DXの事例をとりあげる予定です。

(神楽番頭 作成)


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