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夏祭りのあと

賑やかな祭りが、嫌いだった。
正確には、あとの静けさが嫌いだった。

何かに置いていかれたような、
すっ、と、皆が去って行ったような、
不安な気持ちになるから。

それなら、最初から静かな方がいい。

「今日さ、空いてたら…なんだけど、一緒に行かない?神社のお祭り」

急な誘いに、複雑な心情が顔に出たらしい。

「あ、無理ならいいんだ…ごめんね」

「嫌じゃないんだ、ただ…」
喉元まで来た声が音になる前に、残念そうな、照れ隠しで笑ったような、そんな顔をした彼女は、後ろを向いて行ってしまった。

◇◇◇

日が暮れ、神社の方から、にぎやかな音が聞こえてくる。
行くつもりは無かったが…昼間の誘いが気になって、足が勝手に、神社へ向かってしまった。

薄暗くなった参道を煌々と照らす明かりに、色とりどりの屋台。久しぶりの、夏祭りのにおい。

「あれ…奇遇だね…ひとりなの?予定があるのかと思ってた…」

神様のお膝元で騒いでいるのだから、こういう偶然が起こっても文句は言えない。

うん、ちょっと理由があって…君もひとりなの?少し話さない?
また、喉元まで来た声が音になる前に、今度は、相手の音で、さえぎられた。

「たこやき食べたい!ごちそうして!」

◇◇◇

「そうなんだ…賑やかなのが苦手なんだ…そんなこと思いもしなかった。」

明かりがあまり届かない、御社殿の裏で、彼女は熱いたこ焼きを頬張りながら、僕の顔をじっと見た。距離が近い。風呂上がりの様な良い香りと、たこ焼きのソースの香りが、微妙に混ざり合う。

「あ、違うか。賑やかなのが苦手なんじゃなくて…」

そこまで言うと、少し考えてから、残ったたこ焼きをグイっとこちらに押し付けて、今度はゼロ距離で、声を放つ。

「いま、私に何か、言いたいことは?」

こういう時の持ち時間は、どの位あるんだろう。3秒?10秒?5分は…ないか。

「え、っと…」
「はい、時間切れ~。『この後も一緒に居たい』でしょ、ここは!」

そのセリフを出すのには、もう少し長めの持ち時間か、たくさんの経験が必要だよ。そう喉元まで出かかって、また、遮られた。

「孤独が好きなの?違うよね。だから、一緒に居てあげる。その代わり」

その代わり?

「焼きそば、追加ね」

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