『政治はどこまで社会保障を変えられるのか:政権交代でわかった政策決定の舞台裏』山井和則著、ミネルヴァ書房,、2014


感想

全体・まとめ

構成がちゃんとしていないので、「資料」とかの番号指定のミスが目立つ。

この本は山井和則という人間・政治家を知る上で非常に参考になったし、一般論としても勉強になった。

下の部分でも書いたが、彼は独善性が強いと思う。また、彼が正しいことを主張し、それを実行しようとしているとしても、その経過(プロセス)においては周りの人を巻き込み、説得し、受け入れてもらう(あるいは、敢えて反対はしない、程度になってもらう)必要が政治にはあるのだが、その部分が弱いという感想は変わらない。

ただ、第6章「命を救う政治」の最後の部分「政治は『無償の愛』」と、あとがきで分かるように、彼は生半可な公明党員よりも(笑)宗教者である。

政治は「無償の愛」の実践です。ひたすら国民や弱者の幸せを祈り、片思いかもしれないけれど、自己満足と言われようが、ひたすらに献身する。「尽くして尽くして尽くし抜く」のが政治家の使命です。

自己満足とお叱りを受けるかもしれませんが、本書で述べたように私は家になったからできたこと、政権交代したからこそ実現したことが多かったと思うのです。政治家として働かせて頂いていることに感謝します。

p.200

こう言われると、「政治家は次の選挙に受かるのが目的だから…」とか言って分析してる自分が恥ずかしくなってきます(笑)


第1章 最も政治の力を必要とする人々は、最も政治から遠いところにいる

4. 障害者サービス無料化への戦い:障害者自立支援法の廃止に向けて

「ペイ・アズ・ユー・ゴー」の原則

しかし、財務省との交渉は難航しました。

ベイ・アズ・ユー・ゴー(予算を増やすには、代替財源の確保が前提)の原則があるから、障害者サービス無料化のための代わりの財源を、他の障害者を削るか、他の厚労省予算をカットして用意しないとダメだ」というのが財務省の言い分。

なんで厚生労働省の中で予算を完結させなければならないのか…

当時は「コンクリートから人へ」とか言っていたのに、公共事業や農業土木をバッサリ切ることができなかった。


7 両親のいない子どもや虐待された子どもへの手当の創設:児童養護施設の子どもの涙

子ども手当と児童手当は、単に名前が違うだけでなく、理念も少し異なりました。子ども手当は、児童手当に比べれば、より「社会が子どもを育てる」という意味が強いのです。・・・

児童手当の理念は、あくまで「親に支給する」というもの

良い説明。


9 生活福祉資金貸し付けの拡充:高校中退やむなしの生徒が無事、卒業

卒業クライシス

二〇〇九年末の激しい予算の交渉が終わり、二〇一〇年に入り、一月末から間題が深刻化したのが、「卒業クライシス」と呼ばれる問題でした。授業料滞納により卒業式に出席できない高校生が増えました(資料1-24)。授業料を滞納していると、欠席が三年間ゼロでも、いくら成績が優秀でも卒業できないのです。卒業できないと、せっかく決まっている就職内定も取り消しとなり、人生が台無しになりかねません。卒業アルバムにも写真は載りません。

生徒には、全く落ち度がないのに、親の経済状況により卒業できない。そんなバカな話があってはなりません。

そんなある日、子どもの貧困問題の関係者から「社会福祉協議会の生活福祉資金貸し付けを、授業料の滞納にも回すことができれば、かなりの生徒が救われるのではないか」という話を聞きました。私は早速、朝一〇時くらいに厚労省の担当者に、「生活福祉資金貸し付けを授業料の滞納に活用できないか?」と、問い合わせました。担当者からは、「それは無理です。授業料の問題は、文部科学省の管轄ですから、厚労省管轄の生活福祉資金貸し付けは、授業料には回せません」と返事がきました。

pp. 64-65

典型的な縦割り行政。ただ、担当する役所間の連携の問題もあるが、法律の趣旨として「生活福祉資金」となっているので、下手に流用を認めると際限が無くなる恐れもある。難しい問題。


第2章 厚い財源の壁と戦う

1 無保険の子どもの救済──貧困家庭の子どもたちに医療を

基本的には、社会保険料の徴収も国税庁に任せて強制徴収するべきだろう。


6 非正規雇用を減らし、正社員を増やしたい:求職者支援法の創設、労働者派遣法や労働契約法の改正

労働契約法の改正有期雇用五年で無期雇用へ。雇用を安定化

この本が書かれた2014年時点では結果が出ていなかったので仕方ないのだが、「5年派遣として雇ったら正社員にする」という制度で何が起こったかというと、当然4年11か月で派遣切りが起こるという事態だった。

折角スウェーデンに言ったのに、学んだのは高齢者介護だけで、スウェーデンの労働移動をやりやすくする政策は学ばなかったようだ。


8 財源確保の戦い:ムダや天下りのカット

天下り団体補助「一〇一三億円削減」、事業仕分けで「一一四一億円削減」

結局は、事業仕分け関連で厚労省として一一四一億円を削減し、天下り団体への補助も一〇一三億円削減しました(資料2-23、2-24)。二〇〇九年末までの三か月では、合計一兆二七〇〇億円の削減(一般会計八五一〇億円、特別会計一〇四〇億円、基金国庫返納三一五〇億円)

pp. 133-134

事業仕分けの結果についてはあまり議論されていないが、厚生労働省だけでこれだけ削減できたのは、素直に凄いと思う。ところが…

今回、私たちが厚労省で行ったムダや予算のカットは一年限りのものや資産の売却や基金の返却などで、恒久財源ではありませんでした。ですから、年末までに夏の概算要求時点より一兆二七○○億円の予算の削減を行ったことと、新たな恒久的な予算の確保は、必ずしも直接関係する話ではありません

p. 138

なるほど、素直でよろしい(笑)

「政権交代前の政務官と何が違いますか?」と聞いたところ、「以前の政務官は、週二、三回しか政務官室に来なかった」「とにかく、政務三役が厚労省にいるようになった」というのです。政務官のみならず、大臣も必ずしも毎日、厚労省に来ていなかったそうです。それが、毎日厚労省に来るだけでなく、朝から晩まで新たな予算獲得や、ムダのカットの指示をするわけですから、官僚のみんなもビックリするわけです。

pp. 134-135

おいおい、自民党さんよ…


9 史上最大、社会保障予算が16%増:公共事業費は32%カット「コンクリートへの投資から人への投資へ」

なお、雇用を見てみても、政権交代の前後(二〇〇九年九月と二〇一二年九
月)を比較すると、建設業は、四○八万人から四一一万人に微増、教育・学習支援関係は二五五万人から二七八万人に増加、医療・福祉は五九六万人から六八一万人へと八五万人もの大幅増でした。雇用創出効果も、公共事業より医療・福祉のほうが高いですし、地方においても高齢化が進み、工場誘致が難しく、医療福祉が貴重な雇用の場となっています(資料2-28)

資料2-28:雇用への影響
政権交代で新たな雇用創出。教育関連・福祉関係は増加。建設業の雇用も408万人から411万人に微増。その理由は、公共事業の予算は減らしたものの、様々な規制緩和などにより、サービス付き高齢者住宅の推進を含め、民間の住宅への投資が大幅に増えたからです。
出所:総務省「労働力調査」より山井和則事務所作成

いや、単純に2008年のリーマンショックから経済が通常状態に戻ってた部分もあるやろ。


第3章 変えられなかったこと

2.消費税増税の決断:苦渋の決断。だが大きな代償

実現できなかった理由

今の安倍政権を見ていると、もし民主党への政権交代がなければ、消費税増税は行われていなかったのではないかと思います。しかし、真剣に日本の社会保障の充実と安定化を考えれば、誰かが消費税増税を決断せねばなりませんでした。

p. 153

問題の本質を理解していない。

民主党が最善を尽くして、それでも財源が足りないから消費税というなら、それを言った上で選挙をするべきだった。本人も言うように「恒常的」な財源が必要なのだから、やることやって、次の選挙までは国債発行で済ませばよかった。

国民への説明とか同意という観点が薄い。独善性が強い。それが嫌われた原因だと分かっていない。頭が悪いやつの独善性ほどタチが悪いものは無い。

結局、国民からは改革の成果は十分に見えず、リーマンショックと3.11に全て飲み込まれて、ねじれ国会で手詰まりになり、野田が政権を投げ出した。


あとがき

長いよ(笑)

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