『日本とドイツ 二つの戦後思想』仲正昌樹著、光文社新書 213、2005

下の文章で書いたような目的で読んだので、関係があるのは第1章『2つの「戦争責任」』と第2章『「国のかたち」をめぐって』だけで、第3章『マルクス主義という「思想と実践」』、第4章『「ポストモダン」状況』は、それ自体は面白かったが、今回の企画とはほとんど関係がない。

読んでいて気がついたのだが、基本的に対象は「知識人」なので、これが国の政治行動に大きな影響を与える一般国民と近いのかどうなのか分からない。もちろん、知識人の影響は、特に自分が注目する60年代70年代ぐらいまでは、少なくとも日独両方でそれなりに強かったのだろうが、厳密な理論構成まで一般人が把握していたとは思わない。ただ、知識人の社会的影響力が比較的強い独露では、似たようなことが起こる可能性は高いのではないかという気もする。

第2章の議論で、ドイツは英仏とは異なり市民革命なしに上からの近代化をしたという「特殊性」の議論があるが、ロシアも1917年の革命があったものの、その後の国家形成は共産党による「上から」のものになってしまった。ソ連崩壊後に民主化されたものの、その後権威主義的国家になり、ウクライナでやらかしているロシアは、第1次世界大戦敗北後に民主化されたものの、ナチスの台頭を許し、ユダヤ人やロシア人を相手にやらかしたドイツ人と通じる部分がある。

また、ロシアも「思想の国」と言われるぐらい、よく考える人たちだ。これもドイツと似ている。

こうなると、第二次世界大戦とユダヤ人虐殺についてドイツ人が苦しみながら考えたことは、ウクライナ戦争に大敗北した場合のロシア人(の知識人)も似たような思考回路になる可能性が高い気がする。もちろん、これが一般大衆に影響を与えるためには、「客観的な環境」を整えてやる必要があるが。

ただその一方で、近年まで大して戦争責任論と真剣に向かい合った形跡のない日本も、実は韓国や中国に戦後賠償したり経済協力したり、良いこともやっている。まあ、韓国は同じ西側だったからある程度理解できる部分もあるが、中国は、少なくとも味方ではなかったはずだ。この辺りは、単純に悪いことをした日本が経済成長に成功してお金にゆとりができ、難しいことは考えてなくても何らかのやましいところがあったので、手助けしたということだろうか。まあ、韓国にしても中国にしても自民党を中心とした政党がパイプを作っていて、単純に「賠償」の一部を自分たちの懐に入れるという部分があったのかもしれない(特に中国に田中派が関わっていたというのは怪しい)が、それなりにそれを支える「善意」が平均的な日本人にもあったとは思う。ここら辺は、もう少し調べを入れたいところだ。

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