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社会科学

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2022年4月の記事一覧

『ガスプロム : ロシア資源外交の背景』酒井明司著、東洋書店、2007

はじめに1. ガスプロムの歴史前史

気体であるため扱いが難しいガスは19世紀後半から一部で使用され始めていたとはいえ、世界のエネルギー資源の主役を石油とともに担うようになったのは過去30~40年間のことで、熱量換算で1940年に原油のおよそ1割程度でしかなかった世界のガス生産量は、2006年でその6割を超えている。米国を初めとする世界市場では1970年前後から大型ガスタービンでの発電での利用やL

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『メドベージェフ : ロシア第三代大統領の実像』大野正美著、ユーラシア・ブックレット No.125、東洋書店、2008

プロローグ 新権力者誕生の夜2008年3月2日午後11時。モスクワ中心部にあるロシア権力の砦、クレムリンの公用門であるスパスキエ門から2人の男が出てきた。



プーチン氏は黒のダウン・ジャケット、メドベージェフ氏は焦げ茶の革ジャンパーをはおり、ともにジーパンをはいたラフな姿だ。

この夜、クレムリンの壁に接する赤の広場近くのワシリエフスキー坂では、プーチン政権を支持する若者の団体が主催する人気

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『メドベージェフvsプーチン : ロシアの近代化は可能か』木村汎著、藤原書店、2012

本書の構成メドベージェフは、2008年5月7日、ロシア大統領に就任した。新生ロシアにおいて、エリツィン、プーチンに次ぐ第3代目だった。メドベージェフは、それから1期4年の任期を務めた後、12年5月7日同ポストから辞職した。ソビエト期、新生ロシアの約95年間の歴史において、病死したアンドロポフとチェルネンコ共産党書記長を除くと、最も短命な最高指導者になった。

ドミートリー・メドベージェフとは、一体

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『プーチン主義とは何か』木村汎著、角川oneテーマ21、2000

1 プーチンの謎謎のなかの謎のなかの謎

「ソ連の行動は、謎(enigma)のなかの謎(meystery)に包まれた謎(riddle)である」ウィンストン・チャーチルが、ノーベル文学賞の受賞作『第二次世界大戦』のなかに記した、有名な文章である。約50年も前に、ソ連について述べた英国宰相のこの言葉など、今日のロシア大統領を描写するのにふさわしい表現はないように思われる。

プーチン大統領は、「けっし

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『プーチンの帝国:ロシアは何を狙っているのか』江頭寛著、草思社、2004

はじめに2004年3月に行われたロシアの大統領選でプーチン政権は二期目に向けてのやさしいハードルを越えた。…

…ロシアの改革派として知られた元第一副首相アナトーリー・チュバイスはこのロシアの政治状況を「自由主義の帝国」と肯定的に形容した。ロシアの主要経済閣僚にはチュバイスの影響を受けた人物たちが配置されていることが、西側にはある種の安心感を与えている。

政権の安定度は印象的である。1990年代

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『現代ロシアを見る眼:プーチンの十年」の衝撃』木村汎・袴田茂樹・山内聡彦著、NHKブックス、2010

序言(木村汎)なぜ、1999年~2009年なのか

1999年8月9日――。現代ロシア史を画する分水嶺である。ボリス・エリツィンがウラジーミル・プーチンを首相に指名した日だからである。もっとも当時、「エリツィン大統領の指名がその後10年以上にもわかったロシアの命運を左右する重要決定となる」、こう予測する者は、ほとんどいなかった。というのも同大統領は気まぐれな性格の持ち主で、頻繁に大臣の首をすげ替え

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