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君はもういない ② 完

 教室に戻ると、すぐに勉強を再開させた。過去問を広げてひたすら勉強をする。正直、苦痛だった。休憩時間は彼女とYoutubeを見た。彼女の好きなことは歌うことと、ダンスだ。彼女は好きな歌い手に夢中だ。夢中なのは歌い手だけではない。

学校の先生が好きなのだ。

彼女の方から、先生のところへ毎日会いに行っていた。


廊下を歩いている時、彼女が向こうから走ってきて僕に抱きついてきた。

 「先生に会えたよ! 先生ね、いままで辛い恋愛してきたんだって、、、」

先生と会話をするたびに僕にその会話内容を嬉しそうに話していた。

そんな一途すぎる性格にも惹かれていた。

 気づいたら受験日が近づいていた。学校の授業は終わっていた。クラス全体で会えるのはもう卒業式だけかも知れない、、、彼女とももう全く会っていない。

僕は焦っている。それは受験が近づいているからなのか、彼女と会えないからなのかわからない。得体の知れない不安が僕に襲いかかる。全て忘れるために勉強に没頭した。

 そして、受験当日、朝、冷たい風が鼻先を掠める。電車に揺られながら単語帳を開き、試験会場へと向かった。試験が始まってからはあっという間だった。帰り道は足取りが軽かった。夜ご飯は親がカレーを作ってくれていた。緊張から解放され、ふと彼女のことを思い出す。彼女は今何をしているだろう、、、そんなことを考えながらカレーを食べていた。数日が経ち、受験の合否が発表された。僕は行きたい大学に合格した。真っ先に彼女にLINEをした。

 「〇〇くん、おめでとう‼︎」
 「私も受かったよ‼︎」

 すぐに返信が返ってきた。彼女が受かったことを聞いて、僕は安心した。でも、どこか寂しかった。お互いがそれぞれの道を歩いていく。そこで新しい出会いがあり、上書きされていく。彼女はきっと僕のことを少しずつ忘れていってしまうだろう。胸が締め付けられた。

 その時、ちゃんと彼女に自分の気持ちを伝えようと決心した。

 卒業式、当日、担任の先生は泣きながら最後のホームルームをしている。もらい泣きをしている生徒もたくさんいた。
 僕と彼女はロータリーで帰りのスクールバスを待っていた。僕は彼女に思いを伝える。

 「ずっと、〇〇のことが好きだった。」

 彼女はあまり驚いていなかった。

 「〇〇くんは、すぐにいい人見つかるよ!」

 彼女はきっと僕からの好意に気づいていたと思う。

 彼女に思いを伝えてしまった、、、

 これからの関係性が壊れてしまうのが怖かった。

 「でも、これでいいんだ。」

 自分に言い聞かせるように小さな声で呟いた。


 それから、大学生活が始まり、彼女との接点は少しずつ薄れていった。

 都会の一人暮らしは刺激的だった。

 バイト先の同級生と恋に落ち、半年間付き合い、別れ、自暴自棄になり、泥酔するまでお酒を飲んだり、友達にタバコを勧められ吸ってみたり、夜が明けるまで夢を語り合ったり、旅行に出かけたり、、、

幸せな毎日を過ごした。

それでも、

時々、青い思い出がちらつく。

青い思い出は心に穴を開ける。
代わりのものなんてない。
上書きなんてできない。

君はもういない。

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