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君はもういない ①

 少し遠くから、野球部の掛け声や、吹奏楽部の練習している音が聞こえる。そんな当たり前の日常がいつまでも続くと思っていた。

 僕と彼女は放課後の教室で勉強していた。高校三年の秋頃はみんなひたすら勉強している。そんな中、僕は浮かれていた。机をくっつけて一緒に勉強をしている隣の彼女は恋人ではない。きっと、彼女は僕のことを友達だと思っている。僕は彼女の勉強や、自分磨きにひたむきに努力をしている姿に惹かれていた。くっきり二重ではない、一重よりの二重。けして高くない鼻。少し茶色が入っているボブヘアーの髪。声は誰よりも可愛かった。僕の悩み事を包み込んで、全てを許してくれるような声だ。彼女の隣にいる時は嫌なことを全て忘れられるんだ。いつも通りそんなことを考えながら勉強していた。

「コンビニに甘いもの買いに行こ?」

 彼女が笑顔でそう言った。

「うん。」

 僕は彼女の誘いを断る理由がなかった。彼女と一緒に行動することで僕の心に幸せが広がっていく。彼女の笑顔は僕の心の傷を治してくれる力がある。
 コンビニは学校の近くにある。彼女と僕はコンビニまで歩いて向かった。途中の道路で秋の匂いと彼女の髪の香りが混ざって、頭の中が彼女と高校生活がもうすぐ終わってしまうことに対する淋しさでいっぱいになった。お互いの肩がぶつかる。僕は慌てて少し距離を取る。彼女は何も意識していないのか、平気な顔をして歩いている。そして、車道側を歩いているのは彼女の方だ。明らかに彼女が僕をリードしてくれている。僕は辛くなった。僕から彼女に対する好意と彼女から僕に対する好意は種類が違う。僕のこの恋は実らないことを改めて感じた。
 コンビニに着くとすぐに彼女はデザートコーナーへ飛びついた。僕は急いで彼女についていく。僕は振り回されている。きっと彼女はすぐに他の人のところへ行ってしまう。また一人きりになってしまう、、ふと過去を思い出す。高校1年生の時、僕は病んでいた。そして、一人きりだった。その流れを断ち切れずに高校三年生を迎えていた。彼女に会えることを楽しみに学校に通っている。彼女はいつも笑っていて、コンプレックスや悩みを感じさせないくらい明るい女の子だ。みんなの前では映画やアニメのヒロインとして登場するおてんば娘のような女の子を演じている。そんな女の子は本当は繊細で傷つきやすい。彼女を知れば知るほど魅力に浸かっていってしまう。沼から抜けようとすればするほどハマっていく。


 「そろそろ学校に戻ろう?」

 彼女が僕の顔を覗き込んで言った。僕は我にかえる。彼女の顔が僕の目の前にある。過去はもうどうでもいい。今、目の前に彼女がいることが幸せだ。食べたいものを選び会計を済ませて、食べながら学校へ戻った。

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