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まぼろしの味

「大人になって好きになった食べ物」、みなさんはあるだろうか。
何を隠そう、私は子供の頃、ほとんど野菜が食べられなかった。まともに食べられたのは数種類で、色の濃い野菜がほぼほぼダメだった。年を重ねるにつれて、味覚の変化とか、あとは、調理法を知って美味しく食べられるようになったものが結構ある。ありがたい。

その中のひとつが、長崎ちゃんぽんと皿うどんである。おいしいよねちゃんぽん皿うどん。定期的にものすごく食べたくなって、リンガーハットさんにお世話になっている。
ちゃんぽん皿うどんといったら、あのたっぷり野菜も素敵ポイントのひとつだと思うが、野菜な嫌いな子供の私にとっては、ただひたすらにしょんぼりポイントでしかなかった。麺とスープは好きだけど、それだけ食べようものなら当然ながら叱られる。さらにしょんぼりである。

その後ある程度大人になって、のっている野菜丸ごとちゃんぽんが美味しく食べられるようになったわけだが、実家の家族とお昼ご飯どうする、ちゃんぽん食べに行く?と話をしていたある日、母がこんなことを言った。
「おばあちゃん(父方の祖母)のちゃんぽんは本当に美味しかったのよね」
と。

私の父は九州の生まれだ。
私たちが住んでいたのが関東なので、頻繁にとはいかないものの、兄が中学に上がるくらいまでは長期休みを利用して時々帰った。
祖母がちゃんぽんを作ってくれたことは、ごくおぼろげながら覚えている。でも、美味しかったかどうかは全く思い出せない。小学校に上がった頃亡くなってしまったから、もう30年以上前のことだけど、それ以前に、前述の通り野菜が嫌いだった幼い私は、ほとんど食べられなかったからのような気もする。今なら、あれだけ具沢山の料理を作る手間もわかるから、あらゆる方面から残念で仕方ない。

遠くてやさしい、母の思い出の味。
母も、思い出補正があるのかも、と言っていた。作っているところをみていたわけじゃないから、どんなものを使っていたかも知らないそうだ。特別なことは何もなかったかもしれない。それでも、それはそれは美味しかったに違いないなと思うのだ。

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