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5歳で人生の転機が訪れた君へ

大磯と言う名の小さな駅を降りると潮風が鼻をくぐり抜け、窓ガラスに手書きで書かれたナポリタンの品書きが貼ってある所謂、昔ながらの喫茶店が出迎えてくれる。

大磯以外の湘南地域に住む人々の中には、大磯を
「湘南と認めていない」
という意見もあるが、その喫茶店の横の道路には、でかでかと
「ようこそ、湘南発祥の地へ」
と得意げに主張する横断幕が掲げられている。

湘南と言うと海やサーフィンのイメージだろうか?
昔だと暴走族が多かったからなのか、ヤンキーのイメージも拭い去れていないと思う。

ウチの親父は、そんな暴走族を追いかける交通課の警察官だった。
幼稚園に通う男の子にとって、警察官の父は誇らしげなヒーローのような存在と考えそうなものだが、俺は違った。

俺のヒーローは、親父がビール片手に見る遠山の金さんであった。
警察官の家で、刺青の入った銃刀法違反のおっさんの真似を腐るほどするアホな幼児だった。
そして、全然、関係ないけど長靴が好きだった。

そんな俺の将来を案じてかは分からないが、年々増加する少年犯罪に不安を抱えていた親父は俺がこれから生きていく環境を大幅に軌道修正する決断を下す。

親父は警察をやめた。
警察を辞めたというよりは、生き方を180℃変えたと言う表現が正しいかもしれない。
でも、俺は長靴が好きだった。
(全然、関係ないけど)

親父が国家公務員という肩書を捨ててまで選んだ行き先は、農業や牧畜業を営むコミュニティーだった。

俺は幼稚園をやめて関西に引っ越すことになった。
五歳で進路は選べない。

友達と遊ぶこともあったが、オリジナルストーリーを作って人形を戦わせる遊びが死ぬほど好きだった。
あと、もれなく長靴も好きだった。

自作のオリジナルストーリーに登場する主人公達は、これから我々、家族が属するコミュニティーでは、『入場お断り』とのことで産廃処理場らしきところで全て捨てろと両親に言われた。

忘れもしない。
母親は言った。

「悟空とべジータにお別れを言いなさい」と……

忘れもしない。
サヨナラも言えない悟空とべジータの寂しそうな後ろ姿を……

前を向かなければいけなかった。
ドランゴンボールは冒険の物語。
俺の人生の本当の冒険の始まりは五歳にして訪れた。


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