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【オリジナル小説】親目線



女性アイドルを応援する人は様々な人がいる。

本当に彼女たちに恋をしている、いわゆるガチ恋。

親の気持ちになって彼女たちの成長を見守る人達。

同性として尊敬できるってことから応援している女の子達

アイドルのファンは世代を超える。それはそんなお話。


男は50歳のサラリーマン。頼りがいもあり仕事もできる。

そんな優秀さもあり
今年、部長に昇進した。仕事はまさに順風満帆であった。
しかし、プライベートはというとやっぱりそうもいかない。


28歳の時に、結婚するものの仕事を何よりも優先する彼の性格もあり、家庭を顧みない生活を続け2年後の30歳の時に離婚した。

当時、奥さんは妊娠してまもないタイミングだったのだが、彼は奥さんの強い意志に負けてやむなく離婚を決意した。奥さんは気が強く、養育費の受け取りも拒否されてしまった。離婚をして奥さんが家を出てから結局一度も会わないまま、20年という月日が経ってしまった。


彼は結婚する前、アイドルが大好きだった。

そんな、当時の奥さんと出会ったのもまたアイドルの現場だった。

離婚してからより一層仕事に励んできた彼はアイドルの事などすっかり忘れてしまっていたが、
ある日、テレビをつけてがむしゃらに歌やダンス、バラエティと頑張るアイドル達をみて彼は癒やされた。
若い頃のような恋心ではない。どちらかという親心だ。


自分の娘を見るようにひっそりと応援を始めた。

特に理由はないが、同じ愛知県出身ということでグループに所属していた
光(ひかり)という女の子を応援していた。


彼女は17歳の時にアイドルになって3年が経つものの、中心メンバーにはなれずどっちかというと、あまり目立たない存在であった。

彼は昔から、人気のあるメンバーよりこれから人気になるであろう影のメンバーを応援して自分達の力で人気者にしていこうという応援スタイルだったため選んだというのもある。

親の目線で見るようになり、より一層その気持ち成長を見守りたいという気持ちが強くなっていた。

彼女は歌やダンスではあまり目立たないキャラであったが、
バラエティ番組だとその存在感を放つ。
どうやら、相当貧乏の家庭で育っているらしく、貧乏キャラでバラエティで大活躍しテレビでも最近は良く見るようになってきた。

彼は、テレビ越しに応援しているうちに、昔ヲタクとして活動していた頃のモチベーションが上がってきて
久しぶりにイベントにも参加してみようかと考えた。


調べてみると今のアイドルはすごいことになっていた。当時、好きだったアイドルとは違い、今のアイドルには握手会なるものがあると知り
悩みながらも参加を決めた。

娘ぐらいの年齢の女の子と握手をするってなんか変じゃないかと思いながらも会場につくと、そこには自分と同年代の人達が数多くいた。

彼はアウェー感もなくパッと見その場に非常に馴染んでいた。

そして初めての握手会。
緊張しながらも、地元が同じで娘のような気持ちで応援している事を告げた。

彼女はこんなおっさん相手にも嫌な顔せず、笑顔で「ありがとうございます!」と満面の笑みで応えてくれた。

たった数秒で会ったが、普段テレビで見ている光とこうして会えることは彼の常識からは信じられないことだった。


そこから、彼は光のファンコミュニティにも参加し誕生日イベントや、人気投票イベントの実行委員にもバリバリ活動するようになっていた。

仕事しか楽しみがなかった彼にとっては久しぶりに心から笑える楽しい時間だった。

時は流れ

彼が55歳になったときだった。

25歳になっていた光はライブでアイドルを卒業することを発表した。

昔ヲタクだった彼はアイドルが卒業する事を当然知っていたが、

もう生活の一部になっていたため、頭が真っ白になった。
イベントに行けばたくさん仲間がいて寂しさを紛らわす事ができたが、  彼はイベントに行くこともなくなりよりいっそう孤独になってしまった。

でも、この5年間少しでも寂しさを紛らわせてくれてありがとうと
最後の握手会で思いを伝えた。


その後、彼は会社を60歳で定年退職をした。

光の卒業以降、アイドルを応援しているわけではないが、たまに当時のファン友達と集まっては懐かしい話をして飲む。それが彼の寂しさを紛らわす唯一の方法だった。

光は今なにしているだろう。
実は彼女はアイドルを卒業し、芸能界から引退していた。


ネットの噂では、貧乏キャラでやってきたが本当に貧乏すぎて光が家族を支えないといけない状態になっていたとか。


家族思いの良い娘だなと思いながら、自分をこんなに楽しませてくれた彼女の力に何一つなれてないと嘆きながら、今日も酒を呑んでいた。

そんなある日のことだった。
一本の電話が鳴った。


離婚した元奥さんが病気のため亡くなったという訃報の知らせだった。


もう数十年前に別れているとはいえ、一度は愛し合った仲。
断る理由もなかったため、彼は葬儀へ出席することにした。



葬儀当日。


彼は喪服に着替え家を出た。
会場に着き、受付で名前を告げた。                  「この度は母のためにありがとうございます。」と一言告げられた。


その時、自分に娘がいたということを思い出した。

彼はお腹の中にいる時しか知らない。そこから何度か自分の子供に会いたいと思い行動したことがあったが、どこに住んでいるかすらわからないままで諦めてしまっていた。


まさかこんな形で再開することになるなんて。。。
申し訳なく思いながらも顔を上げ初めて自分の娘の顔を見た。


そこにいたのは、光だった。


アイドルの時からは少し大人っぽくなり、髪型やメイクこそ違うものの  紛れもなく、光の姿がそこにはあった。


「私が娘のように応援していたアイドルは本当に娘だったのか。。」   この時初めてその真実を知ることになった。


どうやら、光は父親は既に死んでいると聞かされていたため
私が誰だかも分かっていない様子だった。
動揺しながらも、彼はそのまま席についた。


頭の中で起きている出来事がうまく整理できないうちに葬儀が終わり、  足早に帰ろうとした彼を光は呼び止めた。

そして、こう話しだした。

「あの、、、私の握手会に来てくれてましたよね?」と。


彼女は覚えていた。父親としてではなく一人のファンとして彼の事を認識していたのだ。


「母とお知り合いだとは知りませんでした。」と光は続けた。

話を聞くと、光 そう自分の娘と元奥さんは離婚後小さなアパートで2人でひっそりと生活していたそうだ。

女一人で子供を育てることは大変だった。

元奥さんは何個も仕事を掛け持ちしており、家にいる時間はほとんどなく光はいつも一人だった。

そんな状況でもたまにある家族の時間は二人でアイドルの番組を見ていたという。

元奥さんもまた、若い頃アイドルを応援していたことを思い出しまたアイドルの番組を見るようになり、そこから力をもらっていた。

歌うことと踊ることが好きだった光は母親に内緒でアイドルのオーディションを受け合格。母親に楽をさせたいという思いでアイドルになったのに猛反対された。それでも光は母親のもとを離れ東京でアイドルを続けた。

テレビに出て頑張っている姿を見せることが親孝行だと信じ活動を続けた。徐々に母親も理解を示すようになった。

しかし、そんな時だった。元奥さんが体調を崩し入院生活を余儀なくされた。周りに頼る人もいなかっため、光はアイドルを辞め母親との時間を選んだ。

それが、彼女がアイドル、そして芸能界から去った理由だった。

彼は自分の娘がこんなに苦しんでるなんて知らなかった。


そして、何も言ってあげることもできずその場を後にした。

彼は家に帰ってから光が出演していたバラエティ番組を見返していた。

昔は面白くて笑っていた彼女の貧乏話も、見ながら自然と涙が流れた。

自分のせいで光にこんなつらい思いをさせていたなんて。。

あの時無理にでも養育費を受け取ってもらうよう頼めばよかったと後悔してもしきれなかった。


数ヶ月後、光は突然芸能界に復活し今ではタレントとしてバラエティ番組に引っ張りだこになっている。


あんなに辛い経験をしてきているのに

「母親の葬式に自分のファンが参列してた」と今では笑い話にして必死で芸能界で頑張っている。その強さは母親譲りだなとつぶやいた。


その後、光は番組で知り合った俳優と結婚。

子供も産まれ、ママタレとしてのスタートを切った。

彼は自分の孫ができた。しかしテレビのニュースで見ただけで顔もわからない。

今日も彼は、テレビ越しに「親目線」で彼女の活動を見守っている。


Fin




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