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歌うような輝きで音楽の新体験を届けるスピーカー|Deep Dive into BALMUDA

2003年の創業以来、徐々に事業を拡大してきたバルミューダですが、ひとつ「やらない」と決めていたジャンルがありました。それがオーディオです。元々ミュージシャンだった代表の寺尾は、ライブの生音こそが一番良い音で、その感動を劣化させずに伝えられるオーディオ機器などつくれないと考えていたからです。

しかし2020年、バルミューダはワイヤレススピーカー「BALMUDA The Speaker」をリリースします。これまでの感動と異なる音楽体験を生み出す方法をデザイナーが提案したことで、「やらない」という長年の考えが覆ったのでした。

今回の「Deep Dive into BALMUDA」では、このスピーカーの開発に深く関わったデザイナーの髙野潤たかのじゅんと当時を振り返りながら、体験デザインの過程をたどっていきます。


BALMUDA The Speakerの本体形状から光、音まで、あらゆる体験デザインを担当した髙野。音楽への愛、音へのこだわりは以前「トースターの窓は、なぜ小さいのか?」の後半でも紹介

感動的な音楽体験を再現するステージ

BALMUDA The Speakerは、ライブのグルーヴ感やエネルギーを伝達し、まったく新しい音楽体験を生むスピーカーを目指してつくられました。最も特徴的なのは音に合わせて光を放つ3つのLED照明ですが、どのように実装に至ったのでしょうか。

「最初は別のデザイナーの方から“音楽を目でも楽しめる体験“として、サビでミラーボールが回るスピーカーの試作機が持ち込まれました。そこから“音楽の輝き“をコンセプトにしたワイヤレススピーカーの検討が始まります。コンセプトの実現に向け、さまざまな資料を読んで研究していたのですが、ある日、昔のスピーカーは回路の間に電球が挟んであったということを知ります。過剰な電力が流れた際、この電球が切れることでスピーカーを保護する、ちょうどヒューズのような役割を果たしていたのです。気になって再現してみようと、市販のスピーカーを買ってきて分解し、デジタルアンプにLEDを並列で挟んでみました。すると、音楽に合わせて、とても幻想的に光を放ったのです。その仕組を真空管テイストの柱に入れてみたのが、私のつくった最初の試作機になります」(髙野)

※製品版では別の仕組みを用いて光らせている。
髙野による最初の試作機(原理試作)。曲のパワーがLEDの光になって出てくるのを感じたという

スピーカーユニットを上部に持ってきて、台座をステージに、LEDの光の柱をボーカル、ギター、ベース、ドラムに見立てたデザインを考案しました。

4ピースバンドのイメージで構成。スピーカーユニットを上部に持ってきて、ー気に最終形に近いデザインに

「1本の柱の光でも十分、幻想的で楽しめたのですが、スピーカーユニットのサイズが決まったあと、下部のスペースをライブステージに見立ててデザインしてみようと思いました。ステージ上にドラムとベース、ギター、そしてボーカルをイメージした柱を、自分自身の音楽経験や好きなバンドをイメージしながら配置しました。しばらくこの4本柱のデザインを詰めていましたが、光の具合が強すぎて目指した体験から少し遠いなと感じ、より歌に集中できる輝きと、センターを目立たせるという意図から、最終的に3本にしています」(髙野)

デザイナーたちが考案したスケッチは数百に及ぶが、これまでの製品と比べると振れ幅は狭い
デザイン上のアクセントにもなっている中央の柱の★は、五芒星が人に似ているというインスピレーションから、バンドの中心人物=スターを表現している
ステージ面にも照明を設け、3本の柱(=バンド)と連携して音楽を表現

光以外のデザインに関しても妥協のない、徹底したこだわりがあります。真空管テイストなデザインは、オーディオ機器の歴史にゆかりがあります。

側面を筒状のアクリルで密閉して生まれる空間もスピーカーの容量として活きている
印刷の内容、フォント、配置などのデザインもあらゆるパターンを検討したのちに決定

0.004秒でシンクロする光

原理試作では音の電流値からLEDの光を制御していましたが、量産品では音楽をリアルタイムで解析し、0.004秒の速さでシンクロ、曲ごとに異なる光を放ちます。また、サビのパートでは、さらに盛り上がるように輝きます。

輝き方には3つのモード用意。左から音楽に合わせ激しく光るBeat、穏やかに光るAmbient、音とは連動せずゆらゆらと光り続けるCandle

「照射の微妙な角度や色味、音と光の速度差なども考慮して光の具合を調整しました。最適な鑑賞距離は本体から1〜2メートルです。光のパターンですが、音楽データを波形で分析してもサビが特殊ということはないので、独自の分析で(サビに入ると)光り方が変わるようにしています。詳細は言えないのですが、秘伝のレシピのようなものとお考えください(笑)」(髙野)

「やらない」が覆った理由

それまでのスピーカーは音質こそが優先される評価基準でした。しかし今、あらゆる方法で、自由に音楽が聴けるようになりました。スピーカーも、もっと自由でもいいのではないか。ミュージシャンが音楽にかける情熱を、これまでと違う方法で伝えたい。映像に頼らずライブの雰囲気を出したい──こうしたまったく新しい感動体験を生み出せるなら、バルミューダで挑戦する価値があると判断し、前進した本来「やらない」はずだった企画。結果的にバルミューダ初の“黒物家電“となったBALMUDA The Speakerは、ほかの製品同様、他社では考えられないようなエンジニアリングによって生み出されたことが髙野の回想からうかがえます。

音楽の輝きを表現するには、ボーカルの声が際立つべきだと考え、開発チームは輝きだけではなく音質にも強くこだわりました。優れた再現性を実現する77mmのスピーカーを上向きにつけることで音が360°に広がり、リスニングポジションを選ばず音楽を楽しめます。また、クリアで高音が伸びやかに聞こえるよう独自のドライブユニットを搭載し、ボーカルの声が驚くほど感動的に伝わる様に設計しています。明瞭でキレのある音は、ライブ音源での再現性や、ラジオを聴くときのパーソナリティの声の聞きやすさなど、新たな音楽体験に大きく貢献しました。

モノラルとは思えないほど、広がりのあるサウンドを共有できる

ホワイトモデル登場

2022年、BALMUDA The Speakerに、お客様から要望が多かったホワイトモデルが登場します。ブラックのパーツをホワイトにしただけではなく、細かな調整で異なる趣を醸し出しています。

「単純に白黒を反転させたわけではなく、印字のカラーをブラウンに、サイドバーをピンクゴールドに変更するなど細かい調整を入れています。また、背面のボタン部周りは処理を変えています」(髙野)

約1年後に投入したホワイトモデル(右)。メッキ部のカラーが異なる
背面のボタン部周辺は、ブラックがヘアライン加工だったのに対し、ホワイトでモデルでは均一なマット調に変更

バルミューダのキッチンシリーズを白でそろえている方にも好評なホワイトモデル。ワイヤレスなので、リビングやキッチンなど好きな場所で好きな音楽を、より多くの方に楽しんでいただけるようになりました。BALMUDA The Speakerだから体験できる音楽の新しい楽しみを、ひとりでも多く人に届けたいと願っています。

マガジン「Deep Dive into BALMUDA」では、普段あまり語ることのない開発現場のディープな情報を、スタッフの声を交えて紹介しています。