ハゲの短編小説 「バス停」
いつものバス待ちの時間。
朝は、サラリーマンと学生で、いつもバス停は、長蛇の列。
長蛇でバスに乗れない事があるって、想像できる?
どうなっているんだろう、ここのバス会社のバスは、小さすぎる。
イライラしている人もいるし、今日は、曇で、バスを待っている人達の顔もなんだか暗く見える。みんなは、ブルートゥースイヤホンで音楽を聞いたり、youtubeを見たり、僕はスタエフでラジオを聞いている。
あっ、バスが来た。いつもの回送って書いたバス。
ここは、谷口駅のロータリーのバス停。谷口駅初で、みんなここから東高校にいったり、名花大学にいったりする。バスは、成松工業団地経由でサラリーマンを降ろしてまた、駅に戻ってくる。僕は名花大学の薬学部2年。
「おい、ババア、早く進めよ!乗れねーだろ!」
なんだ?なんだ?
朝からへんな輩がいるなー。どうしたんだろ。
あっ、おばあちゃんが、ゆっくり歩いてるんだ。足が悪そう。
でも、そんな後ろから叫ばなくてもいいのに。見て分かるじゃん。世の中いろんな人がいるけど、こういう輩に絡まれたらほんと最悪。
君子危うきに近寄らずだよ。
「早く進めよ!イライラする!」
それにしても、朝から大声出しすぎだよ。みんなもそう思っていると思うけど、誰も止めようともしない。僕が近くにいたら、「お前がうっせーんだよ」って言ってやる、いや、君子だから、無理か。
それより、どんな奴かな??
うわー、すごいハゲてるじゃん。僕も薄毛だけど、ああいう大人にはなりたくない。横に頭出して叫んでいるから、ホント月にしか見えない。
あれ、深く帽子をかぶったお兄さんがおばあちゃんに近づいて来た。
おばあちゃんに声を掛けてる。おばあちゃんを支えて、バスの階段登るのもサポートしてる。かっこいいよ、お兄さん。
でも、帽子深くかぶりすぎじゃない?
「おい、兄ちゃん!かっこつけてんじゃねーよ!」
まじ、あのハゲ、そこで、それを言うか。
だから、世の中、弱い人を助けなくなったんだよ。
お兄さんは気にかける事もなく、おばあちゃんのサポートをしてる。
サポートをし終わったら、お兄さんが、ハゲに近づいて、何か言ってる。
それを聞いてか、よけいハゲのおっさんが唸った。
「おいハゲ、うっせんだよー!邪魔だよ、どけよ、バスに乗るからよ」
お兄さんを押しのけ、ハゲのおっさんは、強引にバスに乗ろうとした、
その時だ。
バスの「満席」ランプが点灯した。
ハゲのおっさんも、「あっ」って顔をしている。
その時、僕は確かに見た。
ハゲのおっさんの後頭部に、「空」(カラ)の文字を。
怒り狂った後の熱量が冷めた時に血管がそう浮き出て見えたのか分からないが、確かに見た。
そうか、頭の中が「空」(カラ)だったんだ。僕は少しほくそ笑んだ。
ざまーみろって。
お兄さんはすでに去っていて、ハゲのおっさんもさっきの勢いはなく、意気消沈し、静かに立っている。
でも、お兄さんは、ハゲのおっさんになんて言ったんだろう。気になる。
2台目のバスが来て、僕も、ハゲのおっさんと同じバスに乗った。
バスの中で、女子高生の話が耳に入ってきた。
「あのお兄さん、凄く的を得てたね」
「ほんとそう思う」
「知っておられますか?真の臆病者は、人の弱みを善しと思えない人の事を言います。逆に善しと思える人は強い人の事です。臆病な方は、よく吠えるわりに、いざって言う時に、足を引っ張り、足でまといになるもんです。あなたは善しと思えるタイプの方ですか?それとも足を引っ張るタイプですか?どちらですか?」
「だってね。かっこいいよね。」
「おっさん、足引っ張るタイプだよね。」
「そうそう、笑えた!」
僕はその話を聞いて感動した。
そして、僕も足を引っ張る臆病者である事も分かった。
よし、今日から、自分の弱みの薄毛を善しと認める生き方をしよう。
そう、朝から決意が出来た、素晴らしい日でした。
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