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組織開発事例Vol.3:イノベーションを生み出す経営チーム変革プロジェクト(大手メーカーC社)

今回は大手メーカーC社の新規事業立ち上げを担う経営チームの支援事例をご紹介します。大企業カルチャーからスタートアップカルチャーへの変革を目指した本プロジェクトでは、プロパー社員とキャリア採用の間で起きていた潜在的な対立を超え、部門間の分断を繋ぐコミュニケーションプロセスを生み出すことで、経営チームが一枚岩となり持続的な変化を生み出す土台を作ることができました。


1.新規事業をリードする経営チームの船出

「世界最先端の知恵を巻き込みイノベーションが生まれる場」を目指し、新規事業として始まった今回のプロジェクト。新たなR&Dセンターの立ち上げ、新会社としての独立に向けて走り始めた経営チームには変革を阻むいくつかの課題が燻っていた。特に経営トップの危機感がCxO陣に共有されていないとの課題意識が強く、まずは経営チームの一枚岩化を目指し組織開発支援の取組がスタート。

そして経営チーム6名にインタビューを実施する中で。新事業立ち上げにあたってのコミットメント/モチベーション/将来構想/疑問・不安・不満などを確認する中で大きく2つの課題が見えてきた。

1つは、経営チーム内でのカルチャーのせめぎ合い。
大手企業で長年勤めているプロパー社員と、キャリア採用で今回参画したメンバーとの間で仕事の進め方やコミュニケーションに関する葛藤が生じていた。

オープンイノベーションを実現するには、様々な外部ステークホルダーとの関わりの重要性が高まり、スタートアップカルチャーへの変革が求められている。しかし大手企業カルチャーが色濃く残り、そこへ向けての意識には大きなギャップがあった。

また、日本最先端のR&D組織のベストプラクティスを目指すというビジョン自体は合意できているように見えたが、本社が守ってくれる、仕事にあぶれることはないといった意識も垣間見え、厳しい環境下と高い期待値に対する危機感は共有されていなかった

もう1つは、構造的に生まれていたビジネスサイドと技術部門の対立です。
当初、その対立は表立って言語化されなかったが、プロパー社員を中心に構成される技術部門が多数派・主流派であり、キャリア採用メンバーがトップを務めるビジネスサイドとの間には、お互いへの競争心と遠慮が潜んでいた。

目指す姿の共通認識はできているし、経営トップと各CxO、CxOとそれぞれの部下の関係は良好だったものの、この無意識の対立が原因で部門間連携がうまく進まない、自分たちのせいではないという認識が起きており、結果として現場での実行力が上がらないという状態に陥っていた。

経営陣同士も関わり方を模索していたため、まず経営陣で共通認識を持ち、各CxOが管掌部門のミッションをクリアにすること、そこから横の連携を生み出し現場でのアクションの加速を目指すこととなった。

2.部門ミッション磨き込みと課題の優先順位決め

本取組は「事業の課題(ミッション・戦略・業務プロセス)」と「人・組織の課題(リーダーシップ・役割・文化)」の両面をアラインさせること、限られた時間の中でいかに実行性の高いアクションに落とせるかが鍵を握っていました。

事前インタビューを踏まえてスタートしたSession2では、経営チーム内で各部門ミッションを共有し、相互に質問・フィードバックを重ね、まず各部門ミッションへの理解を深めていきました。

大事なことは経営ミッションと常に往復しながら自部門ミッションを磨いていくこと。そして「自分」「自部門」「関連部門・他部署」「お客様」の4つの視点から「素晴らしい状態」「そうでない状態」のそれぞれについて対話を重ねることで各部門ミッションが磨かれ、より解像度の高い共有認識を持つことができました。

さらにYS法を用いて自部門ミッションをブレークダウンし、重要度と達成可能性の2軸で優先順位を明確にし具体的な重点項目へ落とし込みます。大きい方向性は握れているが実行に繋がらないことが大きな課題だったからこそ、具体化は大きなポイントです。抽象的な表現で語られがちなミッションを実行まで推し進めるためには「具体的タスクに落とし込むこと」「やらないことを明確にすること」に全員で拘りました。

特に印象深かったのは、これまでミーティングを何度もしていたものの、YS法でミッションをブレークダウンすることで新たな気づきが起きたことです。意図していること、具体的に実行されていること、難所などが互いに新鮮で、これまできちんと理解をしきれていなかったということです。タスクレベルで共有されることで1つ1つの解像度が上がり、双方向に建設的な対話が発生しました。それはリーダーシップチームとしての在り方が立ち現れる瞬間でもありました。

3.経営陣のリーダーシップ開発と葛藤・対立のマネジメント

Session3は一人ひとりのリーダーシップと組織マネジメントの変革に取り組みます。今回の経営チームに求められるのは、大企業の組織人としてのマインドセットとは異なるレベルでの事業運営であり、カルチャーや立場による対立が存在する中でチームとしていかにその分断を乗り越えるかが勝負の分かれ目でした。

「タックマンモデル」を題材にチームの成長モデルの共通認識を持ち、最初のフェーズであるForming(形成)期における「メンバーを知る」「チームを知る」の2つに焦点を当てたワークを実施しました。

まずは事前課題で取り組んだ「自分史」と「リーダーシップアセスメントLCP(Leadesrship Circle Profile)」を素材に相互理解を深めていきます。

「自分史」は人生を長いスパンで振り返り、ハイポイント(成功体験)・ローポイント(失敗体験)や人生に整合性を与えているもの(仕事や人間関係で浮かび上がってくるテーマやパターン、信念、情熱や使命など)、そこから見えてくるビジョンについて対話します。一人ひとりの個人としてのエネルギー、仕事上の役割よりも深いところにあるリーダーとしての想いに意識を向けることで、表面的ではないお互いの願いや価値観と繋がることができます。

LCP(Leadership Circle Profile)は成人発達理論など複数の理論を背景に持つ世界でも有数のリーダーシップアセスメントであり、複雑性が高まる環境の中で成果を生み出すためのコンピテンシーやリーダーシップ行動を阻害する「思考・行動のパターンや習慣」が明らかになります。

↓リーダーシップ開発・LCP(Leadership Circle Profile)についてはこちら

お互いの強みや思考・行動パターンを知ることで、チームとして高いパフォーマンスを発揮するために何が必要か、どのように補完し合えるかを考えていきます。お互いのリーダーシップ開発を支え合う関係性を築くことはリーダーシップチームの持続的発展に必要不可欠であり、そのきっかけとしてもデザインされていました。

その後、変化を阻むエッジになっていた経営陣の間に潜む対立と葛藤へと働きかけます。まさにタックマンモデルの「Storming(混乱)」のフェーズを乗り越えることが大切であり、プロセスワークの智慧を生かしたチームコーチングアプローチを行います。

主流派・非主流派の視点を交え、研究(主流派)と営業(非主流派)の対立、そしてプロパー(主流派)とキャリア採用(非主流派)の関係性をテーマに、それぞれの立場の声をまずは出し切ります。期待や恐れ、遠慮や葛藤などを場に出し切るよう支援することで、お互いの中に起きていることに自覚的になることが「Storming(混乱)」の出発点です。

その上で相手の立場から見えている世界を体感し、対立と同時に「世界最先端の知恵を巻き込みイノベーションが生まれる場」というお互いに共有する願いから改めて繋がり、「自分たちの関係性そのものがイノベーションを阻害する存在になりたくない!」という想いを起点に新たな関わり方が立ち上がっていく様子が非常に印象的でした。

最後に各自リーダーシップ行動計画を考えると同時に、「チームのKDA」「チームメンバーへのKDA」について対話と相互フィードバックを行い、チームとしての行動を明らかにしていきます。

ここでのポイントは、「チームとしての行動」に合意すること、そしてお互いにフィードバック&リクエストを行うことです。まだ相手の領域への遠慮があることが経営陣のエッジであったからこそ、相手のKDAに対してコメントを伝え合うことが非常に大きなインパクトを生み出しました。

一番ホットスポットになったのは「優先順位」でした。部門単位での優先順位ではなく、経営チームの中で「やらない or 時間をかけない」ことを決める、それを徹底することが不可欠です。現場ではそれぞれやりたいことはあるし、地味な仕事も、夢を作る仕事も、どちらも大事。ただ工数的にできるか否かは別であり、そこを見極めるのが経営チームの重要な役割だと全員で合意しました。

経営チームで共有されたアクション
・優先順位は経営チームで決めたらまずは言い切り、一度やってみる
・経営会議では「解決」よりも「認識共有」を重視して進める
・経営方針はWeeklyでメンバーに共有し、素早くフィードバックを共有する

4.自走するチームへの進化と仕組みづくり

2日間のセッションを終えた後は、議論からアクションに繋げ、経営チームの自走のための支援を行いました。協業タスクフォースのフォローアップとチームの進化に向けての合意をサポートしていきます。

チームの進化のための合意
・困り事を放置しない。困っているを安心して言える(信号ルール)
・互いへのサポート要望をどれだけ出せたかをKPIにする(ヘルプ競争)

チームの合意は抽象的な表現やマインドで止まってしまうことが多いですが、小さくてもいいので仕組み・ルールに落とし込むことが大切です。格好良い言葉や綺麗な戦略ではなく、チームの課題である遠慮や対立を超えるために何が必要か、全員が自分たちの弱さや恐れを乗り越えながら、手触り感のある自己一致した合意が生み出されたと感じました。

5.危機感の共有と分断を超えた先に見えるもの

チームの旅路はここからが本番ですが、非常に成果の大きな取り組みになりました。トップの危機感が共有され、互いに安心感を持ってチームになれたこと。プロジェクト途中から部門間連携による具体的な動きが生まれ成果が出てきていることも含め、良い滑り出しができたという声が聞かれました。

また、COO・CFOが横連携をリードしていくという明確なアクションが生まれ、これまでトップと各CxOの間でのみ実施していた1on1が、CxO間での相互1on1に発展するなど、経営チーム内での関係性やコミュニケーションプロセスにも変化が見えました。

経営チームの支援に関わる中で、私たちが日々感じていることが、
「分断に気づいている経営者はいるが、分断への対応策がわかってる経営者は数少ない」
ということです。

この分断を乗り越え、経営チームが自己変容するシステムとして進化した時に、多くの企業の中で多くの変革が起こっていくと信じています。

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