見出し画像

地方銀行の金融サービス「金融サービスの未来」

「金融サービスの未来・社会的責任を問う」新保恵志著・岩波新書2021年12月発行

著者は1978年生まれ、日本開発銀行、住友信託銀行を経て、現・東海大学特任教授。専攻は金融論。

新しい金融技術の導入、金融環境の厳しさから地方銀行の合併・統合が叫ばれる。しかし合併・統合によって地域経済の活性化、利用者の利便性が確保されるだろうか?

本書は金融サービスの将来を展望し、銀行が社会の一員として果たすべき金融的役割とは何かを問う。

2018年かぼちゃの馬車事件で、スルガ銀行の高金利ビジネスモデルが破たんした。2020年にはゆうちょ銀行のドコモ口座不正引き出し事件が発生した。

金融機関の最新技術に追いつけの焦りが利用者の利益と信頼を失う結果となった。原因は銀行が金融のプロ・専門家の育成を怠ったことにある。

バブル期以降、失われた20年、中小企業の延命政策、マイナス金利等、銀行収益悪化は目先利益追求の経営に変質させた。

フィンテック企業の銀行業務進出はクレジットスコアリングモデル、ロボアドバイザーソフト等、審査技術、資産運用手法の変化をもたらした。スマホ決済アプリの進出は銀行の手数料収入に大きく影響を与える。

Ai活用による企業審査、入出金データによるローン判定は所詮、過去データに基づく審査。全てに対応できるものではない。最後は人間の目によるチェックが必要である。

銀行の現状は厳しい。人材難時代、入行3年以内の離職率は2~3割、顧客の銀行に対する信頼低下など多くの問題を抱える。

長年の銀行中心の営業活動、過当な金利競争、手数料収入依存の経営など、本来のビジネスモデルを無視した結果だ。

「銀行が株式会社として上場する必要があるのか?」という極論も当然と思える。

将来の個人金融サービスは資産運用の手数料内容の公開、透明性確保が必要である。同時にベンチャー企業育成のためクラウドファンヂング活用した「社会貢献型預金」などを、著者は提唱する。

日本企業は政府救済策で「ゾンビ企業」が生き残った。老齢化社会の老人中心では生産性向上、革新は見込まれない。

企業も「スタートアップ企業」をどう育成するか?それが重要課題である。

企業金融サービスとして中小企業経営支援ネットワークの構築を提唱する。それは銀行が保有する企業情報のネットワークである。

中小企業の要望は「コスト削減」と「新商品の開発」の二つである。どれだけ対応できるか?これで銀行の将来は決まる。

流行りの合併・併合は素人集団・官僚の解決策。「大きければ潰れないのか?」行政に民間企業の戦略が左右されてはならない。

半導体、家電業界の敗北は官僚指導に従った結果。EV自動車戦略の遅れも官僚指導の失敗である。

民間企業が政府施策に依存した結果、2000年から20年間の日本の平均経済成長率は0.8%となった。他の先進国、米国は1.7%、ドイツは1.9%である。低成長時代に倍の差は大きい。

ヤマト運輸・小倉昌男氏は「サービスが先、利益は後」の名言を残した。金融も今後は「草の根金融」が社会を変える時代になるだろう。

金融サービスの役割も顧客あってのサービスであることを再確認すべきである。

銀行に必要なのは「目利きできる行員」ではない。目利きできるのは当たり前。目利きもできずに、融資をする方が問題である。それは単なる「金貸し」だ

中小企業のニーズは昔より遥かに高度化している。それだけ企業環境が厳しい。

真に必要なのは「専門家プロ」の育成であろう。育成には時間がかかる。今すぐ取り掛からなければ、未来には「消滅」が待っているだけだろう。


この記事が参加している募集

スキしてみて

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?