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11日目 黄色い本

「裁縫仕事は好きなんだけどね、もう目が悪くなってきちゃったから。」

と、繰り返し言うようになってからも、母は本を読むことだけはやめる様子がなかった。

家には、天井まで作り付けの本棚のある部屋が2つあった。そこには本がびっしりと詰まっていて、それはすべて父の本だった。

家にいる時、家事をする以外ほとんど本を読んでいる母は一冊も本を買わなかった。毎週せっせと図書館に通い、重そうなカバンを提げて帰っては、またせっせと返しに行っていた。

ある時、母方の祖父が病気をしたのでお見舞いがてら訪ねて祖父の部屋に足を踏み入れたら、そこも一面の本棚だった。本棚に入りきらなくなった本がそこらへんに渦高く積まれている。

高野文子さんの「黄色い本」という漫画のなかで、

「 実ッコ。」
「その本買うか?」

と主人公の少女に父親が話しかける場面で、私はいつも母のことを思い出す。

「いいよう、もう読み終わるもん、ほら。」

と答える少女に、父親は言う。

「好きな本を、一生持ってるのもいいんもんだと、俺は思うがな。」

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この物語はヤヤナギさんが企画されている #100日間連続投稿マラソン に参加しています。

毎日ひとつずつ、少しずつずれながらどこか重なっているような物語を綴っていこうと思います。

企画の詳しい内容は、ヤヤナギさんのnoteのこちらの記事 に掲載されています。

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