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王様には、敵わない。

彼は、すぐ人を振り回す。
なのに、キライになれない。
むしろ、どんどん好きになっていくし、
憧れすら抱いている。

私の母は天然なところもあるが、凛とした人だ。
「女なら泣くな」「すべては自分の責任」など、
たくましく生きるための名言が数多くある。
そんな少々手荒な…自立を重んじる母を
彼は一瞬にして手なずけた。
母の甘い声も、とろけるような笑顔も、
初めて見たような気がした。
そう、彼は人たらしなのだ。

そんな彼の日常といったら、
母が私に言っていた言葉と正反対な行動ばかり。
好きなときにごはんを要求し、
眠くなったら、お気に入りの場所で寝る。
一人になりたいときは押入れに入り、
寂しくなるとドアを開けてとアピールする。
でも、ぜんぶ、可愛いから仕方がないのだ。


彼とは、2012年にうちに来た猫の「風(ふう)」だ。
保護猫だったせいか、警戒心がとても強い。
ピンポーンと音がなれば、
リビングのソファの角に逃げ込むし、
父が抱き抱えようとすると全力で拒否する。
「お母さんばっかり。どうせ嫌われているんだ」と
父は言うけど、出勤後の父の布団は
風ちゃんのお昼寝スペースになっている。
なんて自由気ままな王様なのだろう。


数年前、営業の仕事に耐えきれなくなり、
朝起きると、涙がとまらない。
そんな症状が1ヶ月くらい続き、
もう限界だと悟ったことがある。
「会社を辞めよう」
そう思ってお布団に寝転がると、
いつもは側に来てくれない風ちゃんが
私の方に歩み寄ってきた。
そして、「大丈夫だよ。がんばっているよ。
ぼくみたいにマイペースも大事だよ。」
と言っているかのように、
ぷにぷにした肉球で私のおでこをそっと触ってくれた。
「がんばって」じゃないエールを私に贈ってくれたような気がした。

風ちゃんは人間ではありません。
でも、私にとっては大切な家族の一人です。
うらやましくなるほどのマイペースさと愛嬌で
今日も私たちを支えてくれています。



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言葉の企画4回目の課題は「私の素敵な人」というテーマでエッセイを書くこと。
人ではないものを書くことはルール違反なのかもしれません。
「ペットは家族」というけれど、風ちゃんと過ごすようになってから、
その意味が分かるようになりました。
私にとっては人と同じように大切な存在です。

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