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本の中の酒表現② 「すべて真夜中の恋人たち」川上未映子著(2011年)

川上未映子氏の描く世界はいつもシンプルで、美しい。ご本人の美意識が作品にとてもよく表れていて、いつ読んでも色褪せない作家性が魅力の方です。

「すべて真夜中の恋人たち」で主人公の女性が、日本酒を水筒に入れて持ち歩き、誤って紛失して、パニクるシーンがあるのです。
未読の人は詳しくは読んで欲しいと思います。物語はどうとして私が思ったのが、「日本酒を水筒で持ち歩く、単純にやってみたい」ということでした。
川上さんには怒られそうですが。

札幌ドームで野球を見るときに、缶の持ち込みが禁止なので、水筒にビールを入れて持ち込んだことはありました。美味しくはなかった。グラウラーと仕組み的に大差は無いにも関わらず。
日本酒を持ち歩く、自分に置き換えて考えると、どの日本酒を入れたのか。中身が新政だったら紛失しても恥ずかしくなかったか。日本酒を持ち歩いて、帰ってきて水筒を洗うときに何を思ったか。酒目線で考えてしまいました。お話はすごく愛おしい話なので、読んでいただきたい。

例えば、波多野チカ氏の描く食と川上未映子氏の描く食の違い。漫画と小説で比べてはダメかもしれないでしょうが、SNSを見ていても波多野氏は普段から料理に対してポジティブだけれども、川上氏はあまり料理がお好きでない様子。食に関する感覚が、作品に表れているのかもしれません。

どちらが良いとか悪いとかではありませんが、食やお酒の持つ記号性から世界観を表現できていて、お二人とも大好きな作家さんです。

酒とは離れた話で、私はLGBT時代の女性観については、川上氏を基準としています。世の平均的な男性達には是非足を踏み入れて頂きたい作家さんです。

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