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【エッセイ】呪麺

「本日、臨時休業いたします」

これは一体どんな呪いか──その張り紙を見て、そう思った。だってそうだろう。ふつうに清らかな魂で生きていたら、同じラーメン屋に三度足を運んで、三度とも臨時休業で振られるなんて不運に見舞われるはずがない。

呪いだ。おれ呪われた。やだわ。

今「んなわけあるかい」と鼻で笑った人は、申し訳ないが何もわかっていない。私は『呪怨』とかそういう映画をいっぱい観て勉強してきたのですごい詳しいのだが、世の中の災厄の大半は実のところ「呪い」のせいである。

だとしても、誰に呪われたのだろう? あるいは“何”に?

思い当たる節は、ある。こないだ歩道をへらへら歩いていた時のこと。ふと足下を見ると、地面に黒い点々が散らばっていた。訝しく思って目を凝らすと、急にそれらの点がわさわさと動き出した。

アリだった。たくさんいた。

よく見るとアリたちは私の足を迂回するように、道端にこぼれたジュースのほうへ進んでいた。私は知らぬ間に、彼らの補給路を妨害していたのだ。突然の災難に慌てふためくアリたち。心から申し訳ないと思った。罪悪感を覚えた。

因果応報はこの世のルールだ。人は罪を犯したら、その報いを受けなければならない。そうやって宇宙のバランスはいい感じに保たれている。

この三連続の臨休が、あの時の罪の報いであるなら、私は黙って受け入れよう。ここで逆上して罪を否認すれば、世の善悪のバランスが崩れてしまう。そうした一つの愚かな判断がバタフライ効果のように、後日さらなる災禍を招くのだ。

例えば自分だけ注文を忘れられたり、中華麺の代わりにうどんを入れられたり、ひどい食中毒になって塗炭の苦しみを味わったり。

だからそう、私はむしろ、あの時の罪の代償が、このていどの不幸で済んだことに喜ぶべきなのだ。あのアリたちの寛大さに感謝すべきなのだ。

ありがとう、アリたち。大切なことを教えてくれて。このわだかまる空腹感は、近くのコンビニで満たすとするよ。

後日、四度目にそのラーメン屋を訪れると、はたして店は開いていた。やはりあれはアリの呪いだったのだ。だが三連続の臨休で私の罪は清算され、呪いは解かれた。これでようやくきれいな魂となって、美味しくラーメンを頂けるわけだ。

上機嫌でのれんをくぐった私へ、店主がこう告げた。

「すみません、今日はもう終わりなんですー」

うそーん。

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